貴方に愛を捧げましょう
その強力な力を示すように、めらめらと。
狭い部屋は青白い光に包まれ、神秘的な光景が広がった。
けれどその様を眺める余裕などある筈も無く、刀が放つ力の凄まじさに、今まで感じたことの無い程の恐怖に呑み込まれそうになる。
どうしたって感じてしまう恐怖心を、視覚からだけでもシャットアウトできれば…っ。
その結果、あたしはぎゅっと目を閉じた。
刀に乗っ取られた腕は、もうどうしようもない。
でも意識は無事だ。
頭の中で、あたしは刀に語り掛けた。
刀には葉玖の妖力が宿っていると彼が言っていた。
なら、刀だって葉玖には自由になってもらいたいはず。
そうでしょう…?
ねぇ、あたしに応えて。
刀に語り掛けるなんて馬鹿みたい、以前なら、そう思っただろうけど。
今はもう、そんな事は微塵も考えられない。
手には青い炎を纏う刀を持ち、御札に向かって構え、頭の中で刀に協力を求めようとして……。
ただその状況の真っ只中にいるから、という理由ではない。
彼を解放してあげたい一心で、あたしはこんな摩訶不思議な行動を起こしている。
そこで不意に思った。
彼を解放して、その後は? その後は……どうなるの?
あたしの望みは決まりきってる。
元の生活に戻る事──もちろん“彼の居ない”日常だ。
けれど、葉玖は? ……もちろん、彼は違う。
封印から解放されて、契約から断ち切られたとしても。
あたしの傍から離れない、彼は確かにそう言った。
あたしへの彼の愛が本物だと証明された今、彼の言葉は何もかも信用せざるを得ない。
そうして解放されても尚あたしの傍に居続ければ、結局は何も変わった事にはならない。
彼に対して僅かに感じ始めていた愛情は、今からでも押し殺せばいい。
きっといつか消えて無くなるはず。
律が言っていた……彼には帰る場所が在ると。
それなら、するべき事は決まってる。
彼を嫌悪する“フリ”をして、罵って、突き放せばいい。
それだけのこと。
それがきっと、彼にとってもあたしにとっても、最良の選択なんだ。