貴方に愛を捧げましょう
──…だから。
こうして刀を構えているのは、葉玖が刀に唱えていた、あなたの“主”のためなの。
彼に自由を与えて、あたし自身からも解放させてあげたいだけ。
お願い、あたしに協力して。
……すると、あたしの想いが通じたらしい。
柄を握る両腕を支配する力が一瞬、ふっと抜けた。
その隙を狙って強く願う。
あたしに力を貸して…!!
途端、刀に纏う炎が今までで最も燃え上がった。
目が眩む程で、思わず目を細めてしまう。
そこでふと彼の様子を確かめると、燃え盛る炎の向こうに、彼もまた、青い炎を纏っている。
二つの黄玉は一切ぶれず、あたしと視線がかち合わない。
片時も視線を逸らさずに刀をじっと見据え、何か唱えているから。
あたしに負担を掛けないようにと彼は言った。
見えない力で、葉玖が手を貸してくれている。
あとは……あたしが刀を振るだけ。
最初はあんなに重いと感じた刀が、今この瞬間、いとも簡単に持ち上がった。
きっと刀か彼の力……もしくは、両方の力のおかげだろう。
けれど、それに気を取られる間もなく。
今度は刀の一方的な支配力によって、あたしの腕は刀を振り上げ、そしてすぐに振り下ろそうとした。
──その刹那。
前触れもなく、青い業火が恐ろしい姿見の狐を一瞬にして形作った。
頭部だけのそれは、目が異常なまでにつり上がり、口は裂け、鋭く長い牙を顕にしている。
それでも、確かに狐に見えた。
一体あれが何なのか、何故あんなものが──なんて考えている余裕は、もちろん無い。
ただただ恐ろしいその姿は、葉玖の美しい姿など忘れさせられそうな程で、思わず震えが走る。
冷や汗が背筋を伝い、手が指先まで異常なまでに冷たくなる。
どんなに恐怖心を煽る光景であっても、何故か目を閉じる事が出来ない。
せめてもの救いは、それがこちらを向いていないこと。