貴方に愛を捧げましょう
愛に堕ちた怪異
彼を戒める数珠が弾けたからかもしれない。
御札が完全に燃やし尽くされたからかもしれない。
極限まで張り詰めていた緊張の糸が、そこでプツンと切れたんだと思う。
一瞬にして全身から力が抜け、立っていられなくて、姿勢を保っていられなくて。
未だ炎を纏っている様子の刀を握ったまま、身体は重力に従った。
刀を放したかったけど、今の朦朧とした力無い意思では刀が手を離れるのを、許してくれない。
けれどそこであたしの手を優しく掴む手を感じ、その手が刀から引き離してくれた。
「由羅様!! 由羅様…っ」
あたしを呼ぶすがるような甘く低い声と共に、身体がそっと持ち上げられる。
頭が重くなり、意識も薄れ始め、何も答えられない。
ぐったりしたあたしを抱き締める腕が、無性に心地良くて。
芳しい花の香りを放つ胸に頭を預けた。
何も考えず、ただ本能が求めるままに。
──…肌に伝わってくる、程良い体温。
頬を、髪を、ゆったりと撫でる優しい感触。
身体を抱く、力強い腕。
「由羅様……由羅様」
遠くからぼんやりと響く、鼓膜を擽るような心地良い声が、徐々にはっきりと聴こえてきて。
柔らかな薄明かりを瞼越しに感じて。
「……っ」
ゆっくりと僅かに瞼を開いた。
あたしの瞳が捉え、映し出したのは。
「──…由羅様」
金糸のような髪、美しい相貌、黄玉のような蜂蜜色の瞳。
今にも蕩けてしまいそうな瞳と目が合った、次の瞬間。
なぜか悲痛な面持ちでいる葉玖が、あたしを思い切り掻き抱いた。
「貴女を傷付けたくはありませんでした、それなのに…っ」
未だ朦朧とした意識でも感じる、彼の狂おしいまでの想い。
それがこれまでに無い程はっきりと行動に出ている。
あたしへの想いが言葉となって、ぼろぼろと溢れてくる。
苦し気に絞り出すような声で、次々に言葉を繰り出して。