貴方に愛を捧げましょう
「貴女の鼓動は聴こえていたけれど、もし二度と、その美しい瞳が私を映さないような事になれば…──そう思うと、畏怖の念に呑まれてしまいそうでした」
「あたし……どこも怪我してないから……」
「私の刀が、妖力が、貴女の体力を奪ってしまった。貴女を傷付けたも同然なのです」
「……っ葉玖」
「こうなるであろう事はお知らせ致しましたが、どうか御許し下さい。愛しい人を御守り出来ないなど、あってはならない事なのに…っ」
あたしを抱き締める彼の腕が、心まできつく締め付けているようで。
辛い、嫌だ、苦しい。
あなたにそこまで想われる価値、あたしには無いんだから。
こんな思いをするなら、独りで居る方がずっといいに決まってる。
だから、それ以上あたしを想うような事を言わないで。
──…優しくしないで。
そこで不意に、彼の肩越しに視線を上げて──気付いた。
彼を捕えていた檻が、無くなっている。
檻があったはずの場所には、代わりに、砂鉄のようなものが積もっていた。
そして今、檻の中に捕らわれていた葉玖は、あたしをきつく抱き締めている。
もう二度と、あたしを離さないかのように……。
封印から、契約から、完全に解放された今。
彼があたしの傍に居る必要は無くなった。
──…そして、あれだけ彼を突き放すような事を言ったけど。
それでも目が覚めたら……きっと彼は、変わらず傍に居るだろうと思ってた。
けれど、これではまるで“期待”してるみたいで。
そんな事を思う自分が、今までのあたしでは考えられない感情を持つ自分が。
どうしても信じられなくて。
同時に、自分自身に幻滅した。
「もう、黙って…っ」
もどかしさが苛立ちとなって募り、衝動的に彼の胸を突き飛ばした。
けれど彼の言った通り、刀に体力を奪われていたらしく、大した力も出ずほとんど距離も取れなかった。
「ここから出て行って…!!」
ふらつく身体に鞭を打ち、きつい口調でそう告げながら立ち上がった。
あたしの身を案じて、すかさず彼の腕が支えようするけれど。
その腕を振り払い階段へ向かう。
「由羅様…っ」
鼓膜を甘く震わす心地良い声で、あたしの名前を呼ばないで。
意地が、プライドが、脆く崩れそうで。
今にも振り返ってしまいそうになるから。