貴方に愛を捧げましょう
「大丈夫…?」
顔を覗き込んでくる、葉玖とはまた違った独特の雰囲気を纏う、綺麗な相貌。
その瞳は青……ううん、すごく深みのある藍色。
開いた縁側から漏れる淡い月明かりに照らされ、あたしを横抱きにしたままどこかぼんやりと佇む、不思議な少年は。
「仙里……」
いつの間にか階段を降りていた葉玖が、少年に向けて呟くように言った。
それに反応して“仙里”と呼ばれた少年が顔を上げる。
その時、再びリンと涼やかな音が響いた。
そこでやっと音の源に気付いた。
少し癖のある長めの黒髪をハーフアップ纏めている、濃紺の紐。
その紐の先で音を奏でる、小さな金色の鈴が二つ。
「──…あ、やっぱり、葉玖だ」
中性的な声で、やっぱりどこかぼんやりとした口調の彼は、背の高い葉玖をゆったりした動きで見上げた。
視線を向けられた葉玖は、明らかに戸惑った様子でいる。
「何故、このような所に…?」
「ん……散歩」
一瞬、考え込むような素振りを見せたあと、今まで無表情だった彼がふわりと和やかな笑みを浮かべた。
「知ってる妖気を、感じて、狐火が見えたから、来てみた。そしたら……葉玖が、ここにいた」
どこか変? とでも言いたげに首を傾げた彼に、葉玖は納得したのか頷いた。
たった今述べられた理由はともかく、散歩という理由にも納得したのだろうか。
独特な片言口調の見知らぬ少年に、早く降ろしてもらいたいと思いつつも、突如変化したこの状況のおかげで冷静さが戻ってきた。
一端途切れた二人の会話を見計らって、自分を横抱きにしている彼に告げる。
「あの、助けてくれてありがとう。だけどもう降ろしてくれて構わないから」
他人の家に勝手に上がった彼にお礼を言うのはどうかと思ったけど、助けられたのは事実だ。
それに、彼にそういう常識的な概念があるのかどうか怪しいし、あたしはこの家に愛着なんて無いから。
「ん、平気…?」
「うん、大丈夫だから」
思い切り初対面なのに、やけに心配されて、歯痒くて。
深みのある藍色の瞳から意識的に顔を逸らして頷いた。
「じゃあ、降ろすね」
そう言って、彼がゆっくりと降ろしてくれた──次の瞬間。
床に着いた片方の足首に激痛が走った。
自身を支えきれなくて、再び身体が傾いてしまう。