貴方に愛を捧げましょう
けれど今回も倒れなかった。
二方向から、あたしを支える腕が伸びてきたから。
「ぃ、た…っ」
「足、痛い…?」
「先程、階段を降りる際に痛めたのでしょう」
「っ……!」
二人の心配そうな眼差しを受けて、痛みに上げそうになる声を押し殺した。
情けない、悔しい、自分が嫌になる。
自己嫌悪に陥りながら、どうしても弱音を吐くまいと、痛みを足首から逸らす為に下唇を噛んだ。
「仙里、彼女を助けて頂き感謝します。後は私が」
「そう…? じゃあ、はい」
加減せず唇を噛んで押し黙るあたしを余所に、二人の間で交わされた会話を聞き流していると。
突然、身体がふわりと浮き上がった。
甘い花の香りが鼻腔を擽る。それだけで、誰があたしを抱き上げたのか分かった。
同時に、再び頭にカッと血が昇り、仙里が居る事も忘れて衝動的に叫んだ。
「やっ……放して!!」
「由羅様…っ」
彼の胸を押して突っぱねたけど、あたしの力なんて所詮知れてる。
抱き締められる彼の腕は力強くて、優しくて。
どう言っても拒んでも、無駄だと分かってはいたけれど……もし、熱く真摯な眼差しを向けられたら。
そのまま大人しく彼の言葉を聞いてしまったら。
そして彼の心を、ほんの少しでも受け入れてしまったら。
きっとあたしは、もう…──
「由羅様…っ、血が……」
そこで不意に、あたしの顔を見た葉玖がさっと表情を変えた。
顔の筋肉を強張らせ、苦悶に満ちた悲痛な面持ちへと。
まるで自身が痛みを受けたかのように。
──…理由が分からない。
多分、唇を噛み切ってしまったんだ。血が出ているのかもしれない。
だけどそれがどうしたって言うの?
もう、色んな感情がない交ぜになって訳が分からない。
涙が込み上げてくる、そんな自分を見られたくなくて、仙里の方へ顔を背けた。
あたしを降ろす気がないらしい彼から、少しでも距離を取ろうと胸を押すけれど、一向に隙間を作らせてくれない。
代わりに拒否の意思を示すように、仙里の方へ向くと──あたし達のやり取りを見ていたからだろうか。
丸い藍色の目を更に丸くして、仙里は顔を驚きでいっぱいにしながら、おかしな事を呟いた。
「葉玖、また、人間を…──」