貴方に愛を捧げましょう
「そして今、私の望みは決まっております。由羅様のお側に居て、貴女の全てを愛す事。それが今の私の生き甲斐であり、全てなのです」
「──…っ」
もうどんな言葉も無意味なのかもしれない。
そんな予感がした。
彼に惹かれる心は、もう元には戻せない。
それは予感でもなんでもない、確信に近いもので……。
……そう、どうしようもないのは、あたしの心。
辺りが再び静まり返った縁側で、あたし達は向き合った。
葉玖はあたしの傍から離れず、あたしはどこにも逃れられない。
まるで捕食者に囚われた獲物のように、底光りする蜂蜜色の瞳があたしの姿を捕らえる。
「──…まず、足の痛みを取り除かせて頂きます」
「放っておいて…っ」
「いいえ、どんなに微々たる事でも貴女を苦しませたくはない」
「……っ」
今度は何も返せずにいると、彼は上目遣いでこちらを窺う。
挫いた足首に手を伸ばし、そっと触れながら。
「触らないで…っ、やめてよ……」
「何故です、私を……恐ろしく感じるからですか」
「そうじゃない、あなたを恐ろしいなんて思ったことない…っ」
そういう事じゃないのに、どうして通じないのよ…っ。
いっそのこと、そういう事にした方が良かったと思っても、もう遅い。
でも──そうよ、いっそのこと……。
「……記憶を、消して。出来るでしょう…? あなたと出会った日から、今までの事を。あなたと関わった全ての事を」
「──…っ」
そこで突然、彼は完全に動きを止めた。
打ちのめされたように、哀しみの暗い影を落として。
それはもう、胸の奥を抉られるような悲痛な表情で……。
そんな彼を直視できなくて、思わず顔を逸らしたけれど。
不意に影が差して、触れられて、反射的に向き直った。
すると、いきなりあたしの片方の足首を掴んで逃げられないようにした葉玖は、身体をこちらにぐっと乗り出してきて…──
辺りに鈍い衝撃音が響き渡った。
「そのような……そのような事を、今後二度と、仰らないで下さい…!」
悲痛な思いを滲ませて訴え掛けるような、それでいて有無を言わせない、強い口調で言い切った。
いつもより低い彼の声から感じられた、熱い激情。
それはあたしの顔のすぐ横の壁に思い切り叩きつけた、彼の固く握られた拳にまで込められていて……。