貴方に愛を捧げましょう


初めてその激しい想いをさらけ出した葉玖の様に、息をのんで茫然としてしまった。

ここまで感情をあからさまに表した彼……見たことない。

様々な感情を秘めた鋭い瞳に、獣の影を僅かに覗かせた目の前の彼に。

びくりと身体をすくませた。


「葉、玖っ……」

「私は、もう二度と、愛した人を失いたくはない…っ」


──…え?

なに…? どういう、こと?

たった今言われた言葉が、頭の中でぼんやりと反芻すり。

彼の悲痛な面持ちから目を逸らせない。


“愛した人を失いたくはない”と、葉玖は言った。

“もう二度と”……と。


それは、以前愛した人を、失ったってこと?

──…そうなの?


葉玖の過去について、今更もう、聞く気は無いけれど。

あたしに依存するように、彼はぴったりと傍に寄り添ってくる。

今……その理由が分かった。

愛する人を失うのを、恐れているんだ。


あたしを『殺して』と頼んだあの夜、彼は哀しみの涙を流した。

彼は“死”に敏感で、失う事を畏れている。

その理由で…──全ての辻褄が合う。


「あの方のお側に終始ついて居ればと、悔やんでも悔やみきれない。あのような思いは、もう二度と……味わいたくはない」


声にも悲痛さを滲ませて、過去を悔やみ、自身の恐れを語って。

顔の横で握られていた拳がほどかれ、その手があたしの頬をするりと滑る。

そうして片頬を掌で包み込まれて。

彼の体温がじわりと伝わってくる、熱い眼差しが真っ直ぐに向けられる。

取り込まれそうな蜂蜜色の瞳から、目が逸らせない。

……逃げられない。


「由羅様は嘘を吐かない。私を恐れないと、化け物の姿の私をお好きだと、貴女はその唇で仰って下さいました」


密やかに語る彼の、白くほっそりとした指があたしの唇を示すように、端からそっと撫でていく。

その手を払い除けるどころか、触れ方があまりに艶めかしくて、息が詰まり声すら出ない。

背筋が、ふるりと甘く震えた。


「それだけで良いのです。私が貴女を愛した事実は、何があろうと変わらないのだから」

「あたしは…っ、あなたの事…──」


あなたの事なんて、好きじゃない。

そう言いたいのに、唇に当てられた指に抑え込まれ、それは有無を言わせんとする。


でも、そうされなくても“好きじゃない”と……本当に言えた?


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