貴方に愛を捧げましょう


そんな疑問は、彼の言葉によって霧消されてしまう。


「ええ、解っております。由羅様の心は繊細で脆く儚く、故に頑なで……その全てに、私は惹かれているのです。そして私は、貴女からの好意は求めません。──…但し」


彼の熱い眼差しと想いの籠った言葉の応酬に、何か言い返したいのに、出来なくて。

更に詰め寄ってきた彼は…──鼓膜を侵すように、囁く。


「私からの愛を……ただ、受け入れて」


これは、愛に堕ち狂った獣が仕掛ける、甘い罠だ。


反論すべき言葉が見つからない。

葉玖の決意は固くぶれず、揺らがないから。

手に取るように感じられる、あらゆる想いを含んだ熱い眼差しが、愛情の込められた詞が。

あたしの心を大きく揺さぶる。

ぐらぐら、きしきし、音を立てて。

僅かに開いた隙間からあたしの心を侵すのは、彼から与えられる──狂おしいまでの、無償の愛。





「由羅様……」


妖艶な唇が、甘く響く声が、あたしの名を紡ぐ。

優しく、穏やかに、抱き締めるように。

その刹那、鼓動が乱れ、息が詰まる。


「──…貴女に、口付けの御許しを……」

「っ、──!?」


目の前に迫る美しい相貌。

本当に一瞬の事に驚愕で目を見開く。

金糸が頬を撫でるように当たって、けれど直ぐに反応出来なくて。

一拍置いて認識できた、触れるだけの……淡い口付け。


対応しきれなくて無意識に固まっていたら、離れた彼がこちらの様子を窺うように覗き込んできた、その瞬間──はっとした。

気付いた時には、彼の真っ白な頬めがけて片手を振り上げていたけど。

その手は素早く捕えられ、抵抗しようと繰り出したもう一方の手も、また一緒に捕まってしまう。


掌を合わせ、指を絡ませて。

そうして両の手を片手で押さえ込まれ、そのまま壁に縫い付けられて。

もう一方の手であたしの顎先を掴んで固定した。

その強引な仕様に反抗する間もなく、再び…──


「んんっ……!」


熱い唇が、重なって。

先程より明らかに深い口付けが施される。

呼吸が儘ならない程に乱暴で、まるで……獣に噛みつかれているようで。


「ふっ、ぐ…っ、んぅ…──」


まともな抵抗も息継ぎも出来ず。

一方的で強引なキスを、あたしは成されるがまま──感受するしかなくて。


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