貴方に愛を捧げましょう
まるで甘ったるい蜜の中で溺れているかのような、全身を支配する錯覚。
触れる温かい唇と熱い舌、時折、頬から顎のラインや項を滑る繊細な指先。
それらが──彼の全てが、あたしをおかしくしてしまう。
永遠に続くのかと思ってしまうくらい、長い長い口付けの後。
甘い痺れを伴う感覚からやっと解放されて、喘ぐように暖かい夏の空気を吸い込んだ。
こちらを見つめる彼は、あたしの顎先に指を添えて強制的に視線を絡ませてくる。
お互いの唇を繋ぐ透明の糸がぷつりと切れ、涙で滲む目を凝らしてくらくらする頭で見上げれば。
濡れた自身の唇を艶かしく嘗める、人間の皮を被った──雄の獣。
「貴女を愛しています」
思うように力が入らない身体を抱き締めてくる彼が、艶めいた低音で耳元に囁く。
まるで愛を注ぎ込むように、心を潤すように。
渇いた心に愛を与える。
「私は片時も、貴女の傍を離れない」
「葉、玖……」
朦朧とする頭で辛うじて言えたのは、彼の名前。
そこでほんの少し離れるお互いの身体。
あたしの目を覗き込んだ葉玖は、目眩がする程に艶っぽい笑みをゆるりと浮かべて。
「由羅様のお声は、私の心に甘く響く……。これからもどうか、その麗しい唇で私の名を呼んで下さいませ」
そっと、唇を合わせた。
先程の激しさなど嘘のように、触れるだけの優しいキス。
「今は、お休み下さい」
穏やかな微笑みが、あたしの心を包み込む。
彼の優しく温かな腕のように。
抗えない。逃れられない。
徐々に霞む意識で感じた、頬を伝う零れ落ちる涙。
そこには自尊心の欠片も無く、ただ在るのは…──
“もう、元には戻れない”
──…その事実だけ。