ロ包 ロ孝 2
 あまりの事にヘナヘナと腰砕けになってしまったジェイに陳老人は言った。

「これはこれは、驚かせてしまいましたかな。大変申し訳ありません。いやなに、わたくしはこれでも軍人のはしくれ。退役したとはいえ、情報網はいまだ健在です。
 実はカンがまた貴女に会いに地球へ来たいというので、命を救って頂いた貴女には大変失礼で恐縮至極ですが、身辺を改めさせて頂いたのです。
 軍の仕事というのは1分1秒の判断が何千人、何万人もの命を左右します。その判断の基準となるのは情報です。
 従って軍部は何処よりも早く、正確で詳細な情報を得るネットワークを持っているという事なのです」

 陳老人はショックで立ち上がれないでいるジェイの横に腰を下ろして言う。

「でも順子さん。よくぞ話して下さった。わたくしは嘘や隠し事が大嫌いでしてな。
 もし順子さんが偽り事を並べ立てられるようなら、しかし大恩有るお方でもいらっしゃる。
 それなりの謝礼金をお渡しして、丁重にお引き取り願おうと思っておりました」

 陳老人はカンを見る時のように、顔中をシワだらけにしてジェイを覗き込むと言った。

「でも順子さんは違った。孫を救って頂いたばかりか、この老いぼれの事迄気に掛けて下さった。
 ご心配には及びません。順子さんの事はこの命に代えてもお守りいたします。
 情報検索の結果はわたくしだけしか閲覧出来ませんし、途中経過をトレースする事も出来ません。これは我々だけの秘密です」

 ジェイは顔を上げると陳老人に向き直る。

「でもそれって、世間に対して隠し事をするって事ですよね」

 満面の笑みでそう言われた陳老人は「これは一本取られましたな」と頭を掻く。

「ふう、やっと取れた」

 暫く手元に集中していて話の成り行きを聞き逃したカンだったが、和やかに笑う2人を見て今の状況を悟った。

「じゃあジェイ、カンの部屋行こう! いいだろ、爺ちゃん」

「ああ、行っといで」

 またシワだらけになりカンを見送る老人は『じゃじゃ馬ですが、宜しくお願いいたします』と【闘】で話し掛けて来た。


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