ロ包 ロ孝 2
 ひょいとティーの後ろに下ろされると、ジェイはそれこそ借りて来た猫のようにおとなしくなっていた。

『お前、名前はなんて言うんだ』

 また襲ってきた痛みにそれでも耐えながら、雷児は強がって吠える。

「雷児だ。その内、嫌でもこの名前を耳にする日が来るさ。ほら、そんなに惜しけりゃ返してやるよ、オッサン」

 雷児は今しがたスリ取った財布をティーに投げて寄越した。しかし小さいギャング達の後ろに居た少女が叫ぶ。

「ああっ! あれが無いとサブちゃんが死んじゃう!」

「うるさい! しかたねぇだろっ、マユ!」

 雷児は顔を歪めながらも少女を叱り付けた。

「でもぉ……お医者さん。グスッ……ふぇぇぇん」

 そのマユと呼ばれた少女は、小さな手のひらで顔を覆って泣き出した。

「………?」

「あんなロクでもねぇガキ共、放っておきゃぁいいじゃないですか、ボス」

 ジェイがそう言い捨てた刹那。

  ピシィッ!

 見えない物に張り飛ばされて宙を舞った彼女は、派手に砂煙を上げて地面に倒れ込んだ。

「……! ………!」

 まだヒリヒリと痛む頬をさすりながらも不承不承起き上がるジェイ。

「解りましたよぉ。ボスもお節介が過ぎるんだよな」

「……?」

「いや、何も言ってないです……おい! 誰が病気だって?」


〇※○※○※


【あの出会いが無かったら、今頃三郎はこの世に居なかったかも知れないんだ】

 そう雷児が思いを巡らせていると、仲間の誰かが凄んだ。

「おいっ、痛てぇな」

「すいません」

「すいませんじゃねぇんだよこの野郎。折角の気分に水差しやがって!」

 道にはみ出して円陣を組んでいたのは雷児達。勿論彼らに非があるのだが、そこを通りがかった男性が運悪く誰かの足を踏んでしまったようだ。

「すいません。でもあなた方が道にはみ出してらっしゃったから」

「なんだと? 人の足を踏んでおいてその言い草はなんだ」

 詰め寄られているその男性は背も小さく、痩せているが、なかなかどうして気骨が有る。雷児達に囲まれていても一向に怯まない。

「この野郎、猿みてぇな面しやがってムカつく! 痛てぇ目見せてやれ」


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