ロ包 ロ孝 2
「でも良かったわねぇ。内臓にダメージが少なかったからこそ、ここ迄回復が早かったのよ」

 民権奪還軍の救護施設で野木村と林がまったり喋っていた。あの事故からひと月が経ち、林はやっと普通に話が出来る迄回復していた。

「でもノギちゃん。この左手を見てくれよ。ほら、色が切り落とした所から変わってるんだぜ? それにまだ他人の手みたいにぎこちないんだ」

 林は自分の左手を握ったり開いたりして見せる。

 民権奪還軍の救護施設は老人ホームの入院施設と併設されており、その機能は普通の病院に比べても遜色無い。

ここのオーナーは本来特権階級に属する程の財力が有りながらも、現体制に疑問を持ち、民権奪還軍に協力を惜しまない一市民である。

「それはこれからの頑張り次第よ! 昔より進歩したとはいえ、今もリハビリが一番大事なんだから」

 血流を止め、無酸素状態と点滴に依るATPの補給条件下で行うリハビリテーション技術の進歩で、現在の5分の1程度迄リハビリ期間は短くなっているが、やはりその重要性は今と変わらない。

「ノギちゃん。口で言うのは簡単だけどこれ、端で見てるより辛いんだぜ?」

 憮然とした表情で拗ねる林を見て、野木村は「可愛いんだからぁ」とハートマークを飛ばしている。しかしそれを口に出せば林の機嫌が更に悪くなるのが解っている彼は、林の闘争心を煽りに出た。

「アラ、そんなの知ってるわよ。私だって大腿骨を折った事有るし……膝の関節が曲がらなくてヒィヒィ言いながら頑張ったのよ?」

 しかし。

「おおかた余りの痛さに『何すんだコノヤロウ!』とか言って、リハビリの先生をぶっ飛ばしたんじゃないのか?」

 思わぬ林の、しかも的を射た反撃に野木村はタジタジとなった。

「なっ………何言ってんのよ! 私は夢見る乙女よ?」

 容態も安定し食事も普通食に戻っていた林は、1週間前から大部屋に移されていた。

「プッ」「クククッ」「クスッ」

 周りで起こった噛み殺した笑い声を聞いた野木村は、仕切りのカーテンを引きちぎらんばかりの勢いで開けると言う。


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