ロ包 ロ孝 2
「この野郎、何がおかしいんだお前ら! ああん?」

「!…………」

 同室の患者達は息を潜めて押し黙った。

「止せよノギちゃん! みなさんすいませぇん。叱って置きますから」

「……(安堵)……」

 林が入院してから野木村の精神状態も不安定になり『漢(オトコ)・野木村』の出現が頻繁に行われるようになってきた。

「ノギちゃん。俺の立場も考えろ! まだ暫く皆さんにはお世話になるんだから。
 ったく、お詫びの飲み物でも買ってこい!」

「はぁぁぁい、解りましたぁぁ」

 野木村はいそいそと病室を後にした。


───────


「はい、高橋さんはブラック。ごめんなさいねぇ、私どうかしちゃってたの。
 大槻さんはミルクティーね。もう覚えちゃったわ?」

 野木村がこうして飲み物を配るのも、もう7回目である。

「それよりもノギちゃんには、激昂しない事を覚えて欲しいよ」

 病院服の襟を正しながら溜め息を着く林。すると仕切りを開けて看護士が現れた。

「林さぁん。お熱測りますよぉ?」

 リハビリで病室を留守にしていた為、林はまだ検温をしていなかった。

「ああ、久保田ちゃぁん!」

 その美人看護士は、救護施設の中でも断トツに輝いている久保田だ。いつも笑顔を絶やさないで仕事に当たるその姿勢は、患者の誰からも好かれている。

当然林もその類いに他ならない。野木村にとってはこれも当然、彼女は天敵のような存在だった。

「あら、今日は一子(イチコ)ちゃんも来てたのぉ?」

 更にその鼻に掛かった甘ったるい声は、林のハートをメロメロに溶かしていた。

「……来てたらいけなかったかしらっ!」

 一応この久保田だけは野木村の事を女扱いしている。野木村とも一郎とも呼ばずに、一子と呼ぶのだ。

そんな彼女の気遣いに、野木村はきつい視線を投げ掛けながらも怒りを堪えている。

「いけないなんて言ってないわよぉ、いつもご苦労様ぁ」

「ふんっ!」

 ベッドサイドに置いてある一輪挿しの花瓶が倒れる程の鼻息を吐き、野木村はそっぽを向いた。


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