ロ包 ロ孝 2
「久保田ちゃぁぁ……あっ」

 林の魂は残念ながら、ついに本体と離ればなれになってしまったようだ。


───────


 ナースコールで久保田を呼び、林は胸の内をぶちまけた。散々彼女(彼?)を責めた後、肩を落として黙り込んでしまった。

「ほら林さん。ゴメンってばぁ! でもあたしぃ、名札はいじって無いのよぉ?」

 差し出された形のいい胸の先に付いている名札には、確かに『久保田啓嗣(クボタヒロツグ)』と書いてあり、ご丁寧に振り仮名迄振ってある。

「ここを良く見ない林さんだって悪いんじゃなぁい!」

 久保田は胸をこれ見よがしに振ってみせる。

「ううっ! 女の子(だと思ってる人)の胸をジロジロ見れる訳がないじゃないかっ!」

 林はとうとう半ベソをかいていた。

 そんな一悶着が有った中、林は強化リハビリ棟への引っ越しを急がされている。通常任務に就いている一般兵士とは異なり、実行グループのリーダーである林ともなれば、特別なリハビリテーションプログラムが用意されているのだ。

「はい、初めまして。
 強化リハビリ担当の鴨下です。今、コマンダーから『精々いじめてやってくれ』って、袖の下も貰っちゃいました。はは」

 彼女はその細腕にケーキの箱をぶら下げて林を迎えに来た。快活に動く彼女の後ろで、お下げがこれも軽やかに遊んでいる。

「お、お手柔らかにお願いしますぅ」

 一方それに反して、カミングアウトの衝撃でパンチングアウトされている林は弱々しく答えた。しかし彼女の細い腕を見て、内心ホッとしていたのだ。

 それが甘い考えだったと解るのは翌日の事になるのだが……。


───────


 そして次の日。

ここは強化リハビリ棟の特別施術室。林の声が高らかにいや、あたかもその場を揺るがす勢いで響き渡っていた。

「はいっ、いぃぃぃち」

「うっぎゃぁぁぁあ!」

「はい、にぃぃ」

「おわっ、おわっ、うげぇぇぇっ!」

「はい、さんんん」

「ひぇぇええっ! ひゃぁぁああっ!」

 時を追う毎に、声は既にそれを通り越して単なる空気の噴出音へと化していく。


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