ロ包 ロ孝 2
  ブルルル ブロォン


 激しい砂嵐の中、1台のサンドバギーがエンジンを止める。

キャノピーが上がると、コクピットからボロ布の塊然とした人物が姿を現した。頭からスッポリと被った分厚いマントとこの夕闇のような暗さのお陰で、一見しただけでは男女の区別も付かない。冷え切った砂地に降り立ち、暫くもぞもぞとしていたが、おもむろに歩き出す。厚い毛皮で出来たブーツが交互に踏み出される度に立ち上る砂煙を、風が一瞬のうちに暗い空へと巻き上げ、消し去っていく。

 転々と砂に刻まれた足跡が向かう先には、砂塵避けに大きく軒が抉られた掘っ建て小屋が有った。奥に付いている、人ひとりがやっと通れそうな小さい扉越しにごそごそと呟く。声から察するに、この人物は男性のようだ。

 暫くして扉が開くと、男はその更に暗い漆黒の闇へと吸い込まれて行った。


───────


「よう、やっと来たな。おたくの気難しい指揮官さんは、眉間のシワが更に深くなったみたいだぜ?」

 薄暗いカウンターの中で何かを懸命に彫っている店主は、今来た男を見遣りもせずに告げた。

「あの……すいません、遅くなりました。サンドモービルがいかれちゃいまして……マスター。いつものヤツ頼む」

 店の奥のテーブル席に鎮座していた男が、ピクピクと眉を動かしながら言った。

「遅過ぎるぞ林。それに下らない言い訳はいい。……しかも……何でひとりなんだっ?」

 透過度の低い真っ黒なサングラスからでは表情が窺えないが、言葉の端々には明らかな苛立ちが見えていた。

「すいません、コマンダー。レッド・ネイルはスケジュールの調整にまだ時間が掛かるとかで……」

 コマンダーと呼ばれた男は、民権奪還軍の上級指揮官である清水だ。彼は同じく軍のグループリーダーの林と作戦会議を持つべく、ここ『ギンコー』へ来ていた。

「はいよ、コーラ。まだコーヒーは飲めないかい? お坊っちゃん」

「コーラだって売り物だろう、商売なんだから黙って売りゃいいんだよ!」

「おお怖い! 触らぬ神に祟り無しだ」

 そう言ってグラスをテーブルに置くと、またカウンターで彫り物を始めたこの男は、バー『ギンコー』のマスター、石崎である。


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