ロ包 ロ孝 2
「まさかとは思うが、今度のミッションもブルー・タスク単体で行えると思ってるんじゃないだろうな」

 清水はサングラスを外すと、鋭い視線を林に浴びせる。

「いえ。そんな、とんでもありません。前のミッションではご迷惑をお掛けしてしまいましたから、今回はきちんと軍部の意向を取り入れてですね……」  ダンッ!「取り入れてじゃない! これは命令だ!」

 机を叩いて恫喝する清水。

「ハッ。し、失礼いたしました」

「日本の働きに依っては、特権階級のやつらに決定的なダメージを与えられるかも知れんのだ。余計な思惑を持ち込むんじゃない。いいか? くれぐれもだ!」

 日本には国連各国のコンピューターネットワークの心臓部であるセンターコア・モノリスが有る。核融合炉で駆動され、劣化や故障を自ら修復する、半生命体演算記憶装置だ。

建造された時期以外、建物の規模も内部構造も何もかもが記録から抹消され、世界のどこにそれが有るのかすら解らなかった。しかし最近になって確証筋から得た情報により、それが日本の或る場所に建造されていた事が確認されたのだ。

「岐阜県網岡山(アミオカヤマ)山中に、ニュートリノ天文学の礎を築いた施設跡地が有る。
 天候等に左右されない地中深くの広大な空間といい、充実した電源設備といい、センターコア・モノリスの設置場所としてはうってつけなんだそうだ」

 自分の言葉に依って落ち着きを取り戻そうとするかのように、清水はゆっくりと、静かに語り掛けた。

「解っていると思うが、私がブルー・タスクばかりを使う事を良く思わない輩も居る。
 それでも私はお前の働きを買ってるから頼んでいるんだ、そうだろう?」

「はっ。有り難うございます」

 林はこれでもかというばかりに胸を張り、最敬礼をする。

「まぁいい、モノリスは逃げはしない。レッド・ネイルとの折衝はきちんと頼むぞ」

「承知いたしました。鋭意励行いたします」

 最敬礼をしたまま微動だにせず立ち続ける林をその場に残し、清水はギンコーを出て行った。

「何だかんだ言ってても、おたくは気に入られてるって事だよな」

 石崎は彫り上がった小鳥の置物を林に放って寄越すと、また新たに木切れを彫り始めている。


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