ロ包 ロ孝 2
「ああ、あの猿……いや失礼。あの彼が居ないと聞くとホッとするよ。いやいやコッチの話さ、まぁ奥へ入って」

 雷児は田野倉を自室に案内して話を聞く事にした。

「で、俺達の話は粗方してあるし、まず田野倉さんの事情から聞かせて貰えないか? コーヒーは?」

 雷児はポットに沸いたお湯をカップに注ぎながら聞く。

「スイマセン。私はコーヒー飲めないんですよ。もっぱらコーラかミルクティーです」

「そっか。ウチのボスとおんなじだな、益々期待大だ」

 棚の奥からティーバッグを取り出しカップに入れると、お湯を注ぎながら匂いを嗅ぐ。

「少し古いけどまだ香りは良いみたいだ。ミルクと砂糖は自分でそこのを入れてくれ」

「ワガママ言ってすみません」

 不調法にマドラーだけを突っ込んでカップを渡された田野倉は、言われるままカゴに入ったミルクと砂糖を投入した。

「カスはそこのゴミ箱にでも捨てといてくれ。それじゃ、田野倉さんの歳から聞こうか」

 いきなり尋問口調で切り出され、少し口ごもった田野倉の答えは、雷児を呆気に取らせた。

「え? もう1度いいか?」

 田野倉は馬鹿正直に最初から繰り返す。

「母は私が生まれた時から既に記憶喪失だったので、正確には解らないのですが……おおよそ60です」

「ええっ? それはお母さんが60歳って事だよな」

「いえ、私が60ですよ」

「えええぇぇぇっ?」

 見た目にはどう考えても30前位にしか見えない風貌だ。前に吉村が彼の事を特異体質と言っていたのはその為だったのだ。

「田野倉さんは蠢声操駆法か何かをやってるのか?」

 蠢声操駆法は細胞を活性化するので、術者は老化が緩やかになる。

「ハハハ。やってませんよ。そんな余裕、これっポッチも有りません」

 そう言って彼は、ティーバッグのカスをゴミ箱に入れた。

「実は私の母からして全く歳を取らないのです。少しふくよかなのでシワも有りませんし……。
 周囲の人が気味悪がるので、あまりひと所に長く居られた覚えは有りません」

 田野倉は寂しげな微笑みを浮かべて俯いた。


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