ロ包 ロ孝 2
「田野倉というのも偽名なんです。母が良くうわ言のように言っていたので……」
雷児はどう言葉を掛けていいのかも解らず、ただおたおたとしているばかり。
「そ、それは大変だったなぁ」
考えに考えてやっと出て来た慰め言葉も、凡庸以下でしかない陳腐な物だった。
「ええ、私が幼少の頃は、母も私も施設に居ました。海鮮のです」
「海鮮のって? 田野倉さんは海鮮人なのか?」
もうコーヒーの入っていないカップをひと煽りして、雷児は身を乗り出す。
「そう思っていたのですが、母の僅かな記憶を辿ると答えは日本に有ると思い、30年程前にここ東京へやって来ました」
雷児はまたインスタントコーヒーを作りながら言った。
「30年か。俺が生まれる10年も前から日本に居るんだもんなぁ、どうりで日本語が自然な訳だ」
「有り難うございます。でも発音にはかなり苦労しましたけどね」
少し気が紛れたのか、田野倉は表情を明るくして続けた。
「吉村が私の事を特異体質と言ったのには、まだ訳が有るんです」
そう言いながら少し考えていた田野倉は、思い立ったように顔を上げる。
彼は左手の人差し指を右手でギュッと握ると、雷児の目の前に差し出して見せた。
「?」
「いいですか? 行きますよぉっ?」
不思議そうに彼を見詰める雷児をよそに、田野倉は気合いを込めて自ら指をへし折った。
「おりゃっ」ペキッ!
「!!」
「いだだだだぁぁ」
苦痛に顔を歪める田野倉を、雷児はただ口を開けて見ているしか無かった。
「おいおいおい、そりゃ痛いに決まってるだ……ろ……!?」
しかしテーブルに置かれたその手の人差し指はモゾモゾとひとりでに動き出し、有り得ない方向に曲がっていた事などまるで嘘のように元通りになった。
「……これ、あんた。……一体いつからだ?」
「もう物心付いた時にはこんなでした。母も同じです」
雷児は、この能力を持った人物をもうひとり知っていた。誰あろうボスのティーである。
「ぼっ……ぼっ……ボスゥゥゥゥ」
堪らず雷児はティーの部屋に駆け出していた。
雷児はどう言葉を掛けていいのかも解らず、ただおたおたとしているばかり。
「そ、それは大変だったなぁ」
考えに考えてやっと出て来た慰め言葉も、凡庸以下でしかない陳腐な物だった。
「ええ、私が幼少の頃は、母も私も施設に居ました。海鮮のです」
「海鮮のって? 田野倉さんは海鮮人なのか?」
もうコーヒーの入っていないカップをひと煽りして、雷児は身を乗り出す。
「そう思っていたのですが、母の僅かな記憶を辿ると答えは日本に有ると思い、30年程前にここ東京へやって来ました」
雷児はまたインスタントコーヒーを作りながら言った。
「30年か。俺が生まれる10年も前から日本に居るんだもんなぁ、どうりで日本語が自然な訳だ」
「有り難うございます。でも発音にはかなり苦労しましたけどね」
少し気が紛れたのか、田野倉は表情を明るくして続けた。
「吉村が私の事を特異体質と言ったのには、まだ訳が有るんです」
そう言いながら少し考えていた田野倉は、思い立ったように顔を上げる。
彼は左手の人差し指を右手でギュッと握ると、雷児の目の前に差し出して見せた。
「?」
「いいですか? 行きますよぉっ?」
不思議そうに彼を見詰める雷児をよそに、田野倉は気合いを込めて自ら指をへし折った。
「おりゃっ」ペキッ!
「!!」
「いだだだだぁぁ」
苦痛に顔を歪める田野倉を、雷児はただ口を開けて見ているしか無かった。
「おいおいおい、そりゃ痛いに決まってるだ……ろ……!?」
しかしテーブルに置かれたその手の人差し指はモゾモゾとひとりでに動き出し、有り得ない方向に曲がっていた事などまるで嘘のように元通りになった。
「……これ、あんた。……一体いつからだ?」
「もう物心付いた時にはこんなでした。母も同じです」
雷児は、この能力を持った人物をもうひとり知っていた。誰あろうボスのティーである。
「ぼっ……ぼっ……ボスゥゥゥゥ」
堪らず雷児はティーの部屋に駆け出していた。