ロ包 ロ孝 2
 枕を口に当てながら申し訳なさそうに話すティーは、雷児の話を俄には信じられないようだった。

「それがですね。更に驚くのは、彼の母親も全く同じなんだそうです……尤も彼女は記憶喪失らしいんですけどネ」

『なんだと? それじゃ2人も再生能力を備えている者が居るというのか?』

 叫び出したい衝動を漸く堪(コラ)えたティーは、頭の中がまっ白になっていた。

【蠢声操躯法とその裏法を修得し、しかも超素質に依って超絶発声を行わなければ為し得ない『不老不死』
 それを俺以外の人間が体得しているなんて考えられん。しかも2人もがだ】

「彼は海鮮の施設を抜け出して、母親の少ない記憶を辿りながらとうとう日本に、そして東京に立ち至ったんだそうです」

『海鮮っ! 2人は海鮮から来たと言っていた、の……か……』

 雷児の顔色が変わったのを見て、また慌てて音量を絞るティー。しかし彼の頭の中に立ち込めていたミルク色の霧は、音を立てて晴れて行った。

【その彼は60歳だと言った。丁度あの後に生まれたとすれば……】

『その彼の名前は! 母親の名前はなんと言うんだっ!』

「たっ、田野倉純と言ってました。偽名だそうですが、彼が子供の頃に母親が言っていた苗字だそうです」

【純っ! 田野倉? ……高倉かっ! 子供の耳が聞き違えていたとしてもおかしくはない。やはり母親は……】

 ティーは雷児の胸ぐらを掴んで持ち上げていた。常に活性状態に有る彼の力は、常人のそれを遥かに凌いでいる。

『教えてくれ、母親の名前は!?』

「ボ、ス……これじゃ、喋れま、せん、よ……」

 やっと地面に降ろされた雷児はひきつった笑顔を浮かべながら言う。

「ユウレイが足繁く通い詰めて口説いてくれたお陰で、今日やっとその田野倉さんが来てくれたんですよ。
 なんだったらボスが直接話を聞いたらいいじゃないで……。
 !!! あああ、いっけねぇ! 田野倉さんを待たせっ放しだった」

 急いで部屋に戻った雷児がそこに見たのは、1枚の紙切れに書かれた伝言だった。


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