ロ包 ロ孝 2
ここは某ドーム球場跡地。
防塵工事に巨額な資金を要する為に運営を断念した施設管理会社から政府が買い上げ、フリースペースとして市民に提供されている。
布で作られていた天井部はグラスファイバーに代えられ、風力発電に依ってもたらされる電力で、ある程度の照明と最小限の暖房が施されている。
「よう、そこのあんちゃん。チップ抜き、安くしておくぜ?」
派手なマントを羽織ったピアスだらけの怪しげな男が、ひとりの男性を呼び止める。彼がフード越しに顔を覗かせると途端にペコペコ頭を下げ、声を掛けた男は逃げるように去っていった。
「はは、さてはあいつ、まだひよっ子だな」
少し離れた所からそれを眺めていた少女が呟く。
天然パーマなのか、絡み合う赤い長髪を整えもせず、じゃらじゃらと下げられた飾りに短めのマントという出で立ちの中から覗く、大きな瞳が印象的だ。
国連が全人類に取り付けた生体ICチップを手術で取り除き、小動物に移植する闇稼業が近頃横行するようになった。ICチップが無くなれば、警察に監視される事なく金を稼ぐ事が出来る。この荒み切った世界で充足を得るには、金の力を借りるしか無いのだ。
人々は命の危険を顧みず、脳幹付近に埋め込まれたチップを摘出・移植する手術を行っていた。
ピリリリリッ
突然短く電子音が鳴ると、ドームの中は一斉に慌ただしくなる。
怪しげな店を出していた者は店をたたみ、どこかへ雲隠れしてしまった。先程の男もいつの間にか姿を消している。
「ひよっ子め、逃げ足だけは早かったか……。ボス! ボス! こっちこっち」
呼ばれた男性は滑るように少女の元へやって来ると、2人連れ立って喧騒の中へと紛れて行った。