ロ包 ロ孝 2
 司令と呼ばれた老軍人は感慨深げに目を閉じた。音の無い世界に過ぎていく時間は、地球のそれに比べてゆったりとその歩みを刻んでいるかに見える。

「君が私を元気付けてくれる役割だろう? しっかりしてくれなければ私が困る」

 そう言われた彼は姿勢を正し、上官の頭上に向かって声を張り上げた。

「はい、そうでした。対抗措置を至急執り行い、ご安心頂けるように善処致します」

「うむ。しかし、あまり気負い過ぎるんじゃないぞ?」

 敬礼してその場を辞した若い参謀の背中を見送りながら、老軍人は昔を思い出していた。

【俺も良くああ言われたっけな。俺の言葉は全部、坂本さんの受け売りだ】

 風景映像隅に有るイメージボードをクリックするとカレンダーが現れる。その画面を操作すると年表が表示された。

「坂本さんが生きていたら、来年はもう100歳になるのか……お祖父さんも120近く生きたんだし、まだまだ現役だった筈だよな」

 この老軍人は音力の二代目統括ファウンダーだった、栗原伸浩その人だ。

 ティー(坂本淳)達が海鮮のオペレーションに出掛けた際、日本に残って音力の運営に尽力したのが彼だった。

初代のティーが没したと思われて栗原は新統括ファウンダーに任命される。二代目となり正式な警察機関としての音力確立に奔走した彼は、自分の後継者を育てられないまま、同盟国からの半ば強要とも思われる要請で、国連評議会の評議員に抜擢された。

その後国連軍の参謀迄勤め上げ退官したものの、民権奪還軍の勢力が増した為に呼び戻され、いつの間にか司令官というポストに座らされていたのである。

「坂本さん、見てますか? 今の栗原はこれでいいんすか? 偉くなり過ぎて……自分じゃ解らないんすよ、坂本さんっ!」

 いつの間にか声に出して嘆いていた栗原は、誰の教えも乞えなくなった自分の立場にどうしようもない苛立ちを感じていた。

「ああ、あの頃に戻れるものなら戻りたい」

 腹立たし気にソファへ身体を沈めると、栗原は2本目の煙草に火を点けていた。


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