ロ包 ロ孝 2
  ふぅぅぅぅっ

 丁度栗原が煙を吐き出した時だった。

  ドタドタドタッ

 慌ただしく足音がすると、また違う若者が彼の元へ走り寄ってきて敬礼した。

「司令。お寛(クツロ)ぎの所申し訳有りません」

「なんだなんだぁ。そんなに慌てて」

 自らに感じていた苛立ちを部下に覚(サト)られないように、わざとゆっくり問い掛ける彼だが、若い士官はかなり焦っているようだ。

「それがたった今リークが入りまして、スペースウェイズの幹部役員が反乱分子の一員であるという事なんですが……」

 現在、月と地球を結ぶシャトルを運用している会社は3社有る。スペースウェイズはその中でも、貨物を主に扱っている輸送会社だ。

「何っ? その情報は信用出来る筋からなのか?」

 旅客機を運用する会社とは違って、比較的入月管理が甘い貨物運搬会社は、月攻撃を目論む民権奪還軍に取っては確かに喉から手が出る程欲しい駒だろう。

「しかしあそこの前身はNASAだぞ? 今でこそGDPは世界で10本の指にも入らなくなったアメリカだが、月開発当初は一番気を吐いていた国だ。
 そこの政府機関だったNASAが元となって設立されたのがスペースウェイズだ。採用基準は今でも相当厳しいと聞いているがな」

 特に民権奪還軍が作られてからというもの、月やグランドコロニー関連の会社に入る為には、親類縁者総てに渡っての審査に合格して初めて、その入社受験資格が与えられる事になっている。

 殊更その中でも運送業と建築業は、余計に審査基準が厳しいとされていたのだ。

「出処を偽って入社していたとすればどうですか?」

「有り得ん話だ。経歴を詐称するにはアカシック・レコーダーの記録を全て書き換える必要が有る。詳細は調査済みなのか?」

「はい。それが……発信源さえ特定出来ていない状況でして」

 月輸送に関しては前述の3社以外の競合他社は無い。

 旅客部門の2社が相手を蹴落とす為に風評を流布するなら理解も出来るが、独占企業と言ってもいいスペースウェイズに敵は居ない筈だった。


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