ロ包 ロ孝 2
 そう。ブルー・タスクに資金援助をした『同志Q』とは、この陳老人だったのである。

「月の父さん母さん達にもこちらに戻るよう言ってある。
 民権奪還軍には一般人を巻き込まないように進言してはあるが、いざ戦闘が勃発したとなればそれが守られるかは定かで無い。そこでだ」

 懐に抱いていた孫に向き直ると彼は続けた。

「カンにはお前のネットワークを使って、この事を月の人々に知らしめて欲しい」

 カンは勉強こそ中の下の位置に甘えているが、学校新聞界のピュリッツァー賞とも呼ばれる『ロンギヌスの槍賞』を3度も受賞した名記者なのである。

彼女の持つネットワークは高校生新聞だけに留まらず、小学生紙から月の一般地方紙に至るまで、月の隅々に渡って影響を及ぼしていた。

「解った爺ちゃん。わたし頑張るよ」

 敏腕記者カン・ロアメは今、人々から危険を遠ざけるという崇高な使命と共に立ち上がるのだ。


〇※○※○※


「着け方が解らないやつは俺が教えてやる。蠢声操躯法の使える者は段階に応じて火器を取るように」

 朝食もそこそこに、峰晴達は墨刀討伐の準備を行っている。

「これ、みんな峰晴さんの会社から?」

「ああ、関連会社からのも有るがな。バッテリーは交換出来たか? 予備バッテリーの充電も忘れずにな」

 僅かに残ったティーファミリーの構成員達も山と積まれた見慣れない装備に、否が応でもその士気を高揚させられていた。

「峰晴さん。こんなプニョプニョのが何の役に立つんスか?」

 間接や脛、腕や腿を守るプロテクターをはめながら敦が聞く。

「じゃあこれを腕で受けてみろ」

 言うが早いか峰晴は鉄パイプを打ち降ろした。

  ガィィンッ

 慌ててガードした敦の腕がそれを跳ね返す。

「これはダイラタンシー現象※ を応用して作られたプロテクターだ」

 敦はヤニ下がった顔でだらしなく呟いた。


※ レイノルズ現象とも。水分と細かい粒子を混合した液体に力を加えた際に起こる「ずり応力」で、液体が固体状になる現象。


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