ロ包 ロ孝 2
「いや、俺も先輩風吹かしちゃってすまなかったよ。でもさ、スカートはもう少しめくれてた方が……」

 中継地点である重井沢でテントを張りビバークしていた2人は、その特異な嗜好のお陰で互いの距離を急速に縮めていた。


───────


「ほら見てみろよ。あれは音力のエージェントじゃないか?」

 一夜明けて2人は、難なく網岡山の施設に辿り着いていた。前のミッションにも参加した西村が粗方のコースを覚えていたからだ。

「え? 見えませんよ、これ」

 武田は渡された双眼鏡を覗いたが、良く解らないという様子で何度も見直している。

「これはほれ、ここを押しながら見るんだよ」

 西村は双眼鏡下のボタンを押しながら覗かせた。

「おお、凄い倍率だ」

「な? 見えたっしょ?」

「確かに! あの黒ツナギに黒メットは奴らです。どうしよう……どうします?」

 前来た時は警備員だった筈の見張りが音力エージェントに変わっていた。彼ら2人は仁王立ちでゲートを守っている。迂闊には動けない。

「ここは大沢さんから貰った催眠ガスを使うしか無いっしょ」

 西村はバッグからフライカメラと小さなボンベを出すと、カメラを外してボンベを取り付けた。

「西村さん。ボンベのラベルは確認しましたか?」

「大丈夫。ほら、記憶混濁系の催眠ガスだ」

「でも洒落た名前ですよね。*甘い痛み*ですか」

 武田にもラベルを見せて確認させる。ここで煙幕でも撒いた日には間違いなく騒ぎになってしまう。

今日は調査目的で来ているのだから、秘密裏の内にミッションを終了するに越した事はないのだ。

「煙幕はコッチだ。*ドロンさせて貰います*……このネーミングはイマイチっしょ」

  ブブゥゥゥウン

 早速西村はフライカメラを飛ばした。シャッターを押すサーボモーターの力でガス噴射装置のスイッチを入れるのだ。

航続時間が伸びたと言っても全部で30分しかない。その時間を無駄にする訳にはいかなかった。


引用
  如月 蜜 著『記憶混濁*甘い痛み*』より


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