ロ包 ロ孝 2
 階段を降りて逃げ出した内の1人も壁に叩き付けられ、まるで大きな水風船の様に弾けていた。

「キィィィィィィ」

 ティーは【朱雀】を使い辺りを伺う。物音もしなければ生き物の気配も全く無い。

【1人は逃げたか、まあいい。そいつからこの惨状を聞けば、奴の仲間も2度とこんな真似はしないだろう】

 そう思って鉄骨階段を駆け上がりステージに登ったティーは、端子盤の陰に隠れているジェイを見付けた。

『大丈夫だったか?』

 返り血を浴び、赤黒い塊になって踞(ウズクマ)っていた彼女に寄り添い、手首を縛っている縄と口を塞いでいる猿ぐつわを優しく外してやった。

「プハッ ボスゥゥ」

 ポンポンと頭を軽く叩きそしてきつく抱き締める。

『帰ったらすぐ熱い風呂に入ろうな』

「うん、ボス。心配掛けてごめんなさい。それと、助けに来てくれて有り難う。ご苦労様でした」

 ジェイはいつもティーから言われている『感謝の言葉・ねぎらいの言葉・謝罪の言葉』を思い出して口にしていた。

『おおそうだ、よく言えたな。ご褒美に俺が背中流してやろうか?』

「何言ってんだよ、ボスのスケベ!」

 そう言いながらも、ジェイは血糊でガビガビになった顔を綻ばせてティーに抱き付いていた。

『さぁ、こんな所に長居は無用だ。行くぞ、ジェイ』

「はいボス」

 防犯上の構造なのか、貴金属を扱うここ第3溶鉱炉迄辿り着くには、稼働中の第1、第2溶鉱炉を抜けて来なければならなかった。

外に出るにも今来た逆を遡るしか方法がない。

『こんな所で奴らの援軍にでも駆け付けられたら、正に俺達は袋のネズミだ。
 だが案じる迄も無い。元々10人程度のグループだ』

「相手が規模の小さいファミリーで幸いでしたね」

『ああ』

 そして2人は第2溶鉱炉を出ようとしていた。燃えたぎった釜を擁するそこは、今まで居た第3溶鉱炉とは真逆の暑さだった。

「焼け死にそうな暑さですよ、ボス。先を急ぎましょう」

『1人逃げた奴が居るんだ。念の為に用心はしておけ』


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