ロ包 ロ孝 2
 普段は狂ったように吹き付ける砂嵐も今は凪いでいて、溶鉱炉から立ち昇る白煙が真っ暗な空の遥か高く迄吹き上げられている。

 ジェイ達を襲ったのは、多量の溶岩が海水に流れ込んだ時等にみられる『水蒸気爆発』である。

彼女が切断したパイプから噴き出した大量の水が、一瞬の内に気化して1600倍に膨れ上がり、建物内の空気を押し広げて破裂したのだ。

程なくして、今迄なりを潜めていた嵐がまた巻き起こった。

「アレ……?」

 彼女は狼狽えた。激しく吹き荒れている風の音が、何故か全く聞こえないのである。そこに有るのは激しい金属音と、頭が破裂しそうな傷みだけ。

爆発のショックでジェイの鼓膜はビリビリに裂けていたのだ。

「ボス……寒いよ……一緒でもいいから、お風呂に入りたいよぉ」

 強い風に煽られそうになるのを堪えながらヨタヨタと頼りない足取りで、しかしそれでも彼女は溶鉱炉棟へと歩き出した。吹き付ける砂嵐は防塵マントも防寒スーツも着けていないジェイの体温を容赦なく奪っていく。

もう少しでそこに到着しそうだったが、とうとう彼女の足は一歩も前に進まなくなってしまった。

うずくまる彼女がやっと繋いでいた意識も、寒さと耳の痛みで暗闇の中へと沈んでいくのだった。


〇※○※○※


「暗闇の中へと沈んでいくのだった。……続く」

 雷児は手元に有ったビールのプルトップを開け、一気にあおった。

 ゴキュッ ゴキュッ ゴキュッ

「プハッ、やっぱり冷えてないと不味いですね」

  パシィィィィン

 バックヤード中に雷児の頭が張り飛ばされた音が響いた。

「おまっ、続くじゃねぇだろ続くじゃ! ボスは、ジェイはどうなったんだよ!」

「ジェイさんは今でも五体満足で生きてるじゃないですか!
 だから燃やされた位じゃボスは死なないんですよ!」

「こんの野郎! 絶対許さねぇ!」

 そう言って雷児に掴み掛かる峰晴は、その言葉とは裏腹に満面の笑みを湛(タタ)えていた。

しかし彼らは忘れていた。蠢声操躯法を修得した己の声が、どれだけ大きいかを。


< 214 / 258 >

この作品をシェア

pagetop