ロ包 ロ孝 2
「アアごめんなぁ、マユ。三郎のな、お薬買うのに、みんなお金を使っちゃったんだ」

 晋は出来るだけ小さく屈み込んで、その大きな手で頭を撫でながら言った。

「でもマユ、お腹空いたのだモン。だってマユ、今もお腹が鳴ってるのだモン」

 まだ5歳になったばかりのマユには、お金が無い事と食事にありつけない事の関連性が理解出来ないのだ。晋は噛んで含める様に優しく言って聞かせる。

「今な、雷児達が汗を沢山かきながら頑張ってるから、お腹空いて辛いだろうけど、マユも辛抱してくれな?」

 すると晋の柔らかな笑顔に誘われて、マユもにっこり頷いた。

「うん。マユ頑張る。雷児も頑張ってるのだモン」

「でもなぁマユ。なんでマユは雷児だけ呼び捨てにするんだぁ? 雷児だって一生懸命なんだぞ?」

 そう問いかけられたマユは小首を傾げて考える。

「だってぇ……晋君はシン君、あっちゃんはあっちゃん。ユウレイちゃんはユウレイちゃんで……雷児はライジなのだモンっ」

 最後は可笑しくて堪らないという調子で晋に飛び付き、ケラケラと笑うマユ。

それに連られて、彼も大きな声で笑っていた。

「雷児はライジか。アッハハハハ……ん?」

 また優しく頭を撫でていた晋は、いきなり立ち上がって言う。

「あっと、そうだった。ちょっとマユ、来てみ?」

 彼らが隠れ家にしていた掘っ立て小屋にマユを連れて行くと、晋は自分の私物が入っている箱の奥底に潜ませた手提げ金庫をさも大事そうに取り出した。

「なになに、なぁに? コレ!」

 空腹から生気を無くし、まるで脱け殻のようになっていたマユの顔は、一転して輝いている。

「これはな、何かの時の為にと隠しておいた『晋君の取って置き』だ、ホレ」

 彼はその中に有った台形の缶をマユに手渡した。

「うわっ! 凄いっ! これコンビーフだよっ。コンビーフだよねっ? 晋くん開けて開けてっ!」

「よしよし、ほら。全部食べな」

 缶を付属のキーで開けてやり、キラキラした笑顔を向けているマユにそれを渡すと、晋は何かを口に放り込んでいる。


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