ロ包 ロ孝 2
「ハロー、私よ。久し振りね。え? 違うよ。私よ? そうよ、カンよ!」

 陳老人から託された命(メイ)に依り、カンは大忙しで関係各所に連絡を取っていた。

「ちょっと内容的には重いけど、心配召さるな。良く吟味しなっセ!」

 カンはそう言って通信を切ると、訝しげな顔をして考え込んでいる。

「うう〜ん、畑山君。何でカンって解らないか? ちゃんと映像送ったというのに……」

 ふと手元に有ったコンパクトを覗いたカンは、天を仰いで自らの浅はかさを呪った。

「オウマイガァッ! 化粧すんのすっかり忘れてたね」

 取るものも取り敢えず眉を書き、粗方のアイメイクを済ませ、手近に有ったリップを塗り込めるとデータの送信を行った。

「でもまだ2軒目だったのは『旅行中の落雷』ね。1軒目がボブだったのは『羨ましがられる』けど」

 恐らく『不幸中の幸い』と『悔やまれる』の間違いだろう。

「ハァイ! カン姉ちゃんよ! 元気か? ゴンザレス後藤」

 どうやら今度はすんなりと話が通じているようだ。


───────


 その後も精力的に情報の交換を行ったカンだったが、結果的には余り芳しい手応えは得られなかった。

 特権階級に在る者達は誰も、『民権奪還軍にそんな大それた事が為せる筈は無い』と思っていたからだ。

「そんな『流暢』に構えてて『尻穴』掻くのはあんたらやけんね!」

 『悠長』と『吠え面』だ。結局カンは最後に捨て台詞を残して通信を切るのみだった。

最初に連絡を入れた、カンが密かに想いを寄せているロバートもその例に漏れない。

『また何を言い出すかと思えばそんな事! 最近特ダネが無いからってカン。捏造記事はイカンだろう』

 そう言って一方的に通信を切られた。彼からの同意を得られるどころか、軽くたしなめられてしまったのだ。

「もう! なんでみんなそんなに頭固いのか解らへんで? 『ロンギヌスの槍賞』の権威も地に堕ちたもんやわ!」

 カンは項垂(ウナダ)れて陳老人の部屋を訪れた。

「爺ちゃん、カンよ? 全く梨の礫(ナシノツブテ)よ」


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