ロ包 ロ孝 2
「まただ。やっぱり犯人は解らず終いか」
「はっ、いえ、現在鋭意捜索中です」
月では、国連軍コロニーが一時完全に停電するという非常事態が起こっていた。数秒の内に発電機に切り替わり事なきを得たが、太陽電池に依って常時充分な電力供給を受けている月施設には有り得ない事故だった。
「結局どこにも影響が無かったから良かったが、もし生命維持システムに異常を来していたら大事(オオゴト)になる所だったぞ」
「は、はい栗原司令。非常電源に依る供給は遅くとも10秒以内に切り替わります。各コンピューターのメモリにも2時間以上バックアップ可能なバッテリーシステムが搭載されており……」
栗原は若い参謀の肩に手を置き、その先を遮った。
「太陽光に溢れた此処に停電等有り得んのだ。太陽電池プラントからの電力ケーブルの埋設方法を再度検討すべきだろう」
「は、はい。至急手配致します」
「加えて発電機以外の非常電源を考える事も急を要する。今回のように一時的な停電ばかりとは限らないからな」
「そうですね。そう致しますと小官の一存では……」
「私の名前で緊急対策本部を起こしてくれ。……やれやれ、また忙しくなりそうだな」
「承知致しました。では早速」
深々と頭を下げてその場を辞した若い参謀を見送って、老軍人は椅子に掛け直した。
「あの停電は故障などでは無い。犯行声明こそ出されてはいないが、反乱軍の仕業だろう。
奴らもとうとうここまでやって来たという訳だ」
煙草の煙が妙にまとわり付くのを手で払った彼は、これから始まろうとしている何かを思って眉をひそめた。