ロ包 ロ孝 2
「爺ちゃん爺ちゃん、特ダネだね!」
一時は入院を勧められていた陳老人だったが、軍人として培った鍛練の賜物か、彼は日常生活が送れる迄に回復していた。
「おう、カンか。どうした」
「爺ちゃん、調子はド?」
陳老人は穏やかな笑顔で何度も頷き、ベッドの端に掴まったカンの頭を撫でた。
「お陰様でいいみたいだな、有り難うよ」
「ソか。それでコレ見て、コロニーのジェイムスから来たメールね。彼の父さん、アナライジング・チームで仕事してる」
ベッドサイドの老眼鏡と共に、メールをコピーした液晶ノートを陳老人へ手渡した。
「ふむ。さすがの情報網だな、カン。おお、これはいよいよ急がねばならん」
陳老人は眼鏡を掛け直しながら、以前民権奪還軍の幹部から聞いた話を思い出していた。
「これは彼らが開発した電磁爆弾だ」
「爺ちゃん、そんな事まで知ってるか。新聞記者になれるね」
「国連軍の機能を麻痺させる為に開発したものだそうだが、やはり奪還軍は無血クーデターの方向で動いてくれてはいるようだ」
しかしそれは奪還軍としての総意では無いとも聞かされていた陳老人は、形勢次第では武力衝突になり兼ねない事態をこそ憂慮していたのだ。
「それじゃ月のみんなは安全ね? 一応知らせてはあるけどみんな信じなかったし、良かったよ」
カンは自分の力不足で社会に対する働き掛けが出来ないその苛立ちからやっと解放される、と肩の荷を下ろし掛けた。
「いや。国連軍がそれを黙って受け入れるとは考えにくい。
折角築き上げた権力を手放す訳だからの」
「じゃあやっぱり……?」
「うむ。友達への啓蒙活動は引き続き行ってくれんかの」
穏やかな微笑みの中に在って、でも少しも笑っていない陳老人の瞳を見ながらカンは、自分の甘い考えを打ち消さなければならないと思い直していた。