ロ包 ロ孝 2
「久し振りだな、甘露飴新聞。ここんとこスッカリご無沙汰だったけど、どれどれ……。
な、何ぃっ?」
彼は朝食の準備で開けた冷蔵庫の扉もそのままに、立ち尽くしている。
カンは新聞関係のツテに連絡するのを諦めて、自ら主宰する新聞の号外として今回の一件を取り上げ、ネット配信していた。
勿論ジェイムスや各人へ秘密漏洩の疑いが掛からないように、細心の注意を払った上での事である。
「この月面地磁気表は月気象観測庁発表の物だし、根も葉もない噂話じゃないな」
部数にすればたかだか3千部余りの甘露飴新聞だが、過去カンが3度に渡って受賞した『ロンギヌスの槍賞』の威光は大きく、地球の新聞社やテレビ局の上層部にも読者が居るというそれである。
この彼も、受賞した記事に書かれていたカン独自の視点に刺激を受け、はや購読2年目を迎えた新聞記者だった。
「今までも小さな事件は有ったが、国連軍側に実害が無かったから見過ごされて来た。
しかし月面全体の地磁気を狂わしたとなると話は変わって来るな」
彼の会社は民権奪還軍寄りの姿勢を今まで取り続けて来た。政府からの弾圧も無かった訳ではない。
しかしあくまで表向き民主主義政策の日本では、あからさまな粛正等は行われて来なかった。
「これからが踏ん張り所だぞ?」
しかしこれが有事に発展すれば、民権奪還軍を反乱軍と公に呼ぶ政府が黙ってはいないだろう。
トーストを咥えながら彼は、自らのペンの重みを改めて噛み締めるのだった。