ロ包 ロ孝 2


「こんのポンコツっ!」

 暗い砂地の作業場で、林がウンともスンとも言わないサンドモービルを蹴り上げた。

  ゴンッ

「イッテェッ、こん畜生! ぬぉぉぉぅ」

 鈍い音と共に足の脛をイヤという程ぶつけて、林はひとり悶絶している。

「何やってんの! 貴方だけの身体じゃないんだから大事に扱いなさい?」

 のっそりと作業場にやって来た大男は、彼の副官である野木村だ。

「俺の身体は俺のモンだ。馬鹿言うな!」

「いいのよ、ミッツィー、ゆっくりで。こっちの世界は両手を広げて貴方を待ってるからっ」

「お前も懲りないなぁ……」

 野木村は電子戦のエキスパートである。各種妨害活動やハッキングに懸けては民権奪還軍の中でも随一の腕だ。

ひとつ難が有るとすれば、この通り『乙女心』を有している点だろう。

「お前、理工系なんだからこういうのも直せるだろ? なあ、ちゃちゃっと頼むよお」

 作業灯の角度を直し、油まみれの顔を袖でしごきながら林は懇願するが、野木村はつれなくもこう返す。

「これはいくらミッツィーの頼みでも聞けないわよ。
 機械いじりなんて野蛮な事、私に出来る訳無いじゃない。大変だけど頑張ってね~」

 野木村は自慢のサラサラヘアーを掻き上げながら作業場を後にする。去り際に振り返って「でもそうやって頑張るミッツィーは素敵よ」と言い残すが、林は憮然とした表情のままだ。

「機械いじりが野蛮だって? お前のルックスのがどれだけ野蛮だってんだよ、全く!」

 以前ボディービルダーでもあった野木村は、その完璧に厚ぼったい一重マブタが凛々しい眉と相まって、誰もが見ただけで震え上がる程の風貌だ。

「あ~あ。腕のいいメカニック、居ねぇかなぁ……」

 林の呟きは誰も居なくなった砂地の作業場に虚しく漂っただけで、誰の耳にも届かなかった。


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