ロ包 ロ孝 2
 カンはランチボックスをてきぱきと片付け、そこを後にしようとしている。その手を取って、ロバートは平謝りした。

「まっ、待て待て。解ったっ! 俺が悪かった。
 もう何も聞かないから続きをお願いします」

「ハンハンハァン?」

 カンは顎を何度もしゃくって了解すると、スカートの裾を引っ張りながら腰を据え直し、再び話し出した。


───────


 普段はあまり袖を通す事もない分厚いジャケットに少し手こずりながら、カンはカメラに掛けた防塵カバーを点検している。

 彼女は祖父にも告げずに家を抜け出し、かのドームイン東京へ来ていた。ストラップでカメラを首から下げ、意気揚々とゲートをくぐる。

「……!……」

 ドーム内に足を踏み入れたその時、カンは自分を取り巻くただならぬ気配を察知した。

 それはそこに充満する人いきれとも、埃っぽい空気とも違う、何とも背筋が寒くなる感じだ。

【これって……かなりヤバくないかしら】

 1人でいる事が急に怖くなり、カンは手近な露店商に片言で話し掛ける。

「コレはアナタが作ったんデスカぁ?」

 そこに並べてあった、見るからに稚拙な飾り物を指差した。

「そうだ。冷やかしだったらどっかに失せな」

 まだ顔に幼さが残る少年店主は、そうぶっきらぼうに言う。

「ウッセーなぁ? 声、大きかったゴメンナサイです。
 オゥ、このチョーカー素敵だろ?」

 日本語専攻とは言ってもお勉強の方はサッパリのカンは、この程度を話すのが精一杯だった。

【ヒアリングだったらまだ自信が有るんだけど、単語が出て来ないのよ】

 自分に言い訳をしながら少年を見ると、さっきとはうって変わって顔を輝かせている。

「解るのか? ねぇちゃん! これは俺のオリジナルなんだ。師匠には散々こき下ろされたけど、あんたは見る目が有るねぇ」

 カンは少し頭の中で単語を游がせる。

「ダー!(ロシア語でYesの意) 師匠解ってない、アナタ才能有るねぇ。これ幾らだ?」

「ああ、残念だけどこれは売り物じゃねぇんだ。また自信作が出来たらその時に買ってくれよ」


< 38 / 258 >

この作品をシェア

pagetop