ロ包 ロ孝 2
 その身長の半分にも満たない少女から睨まれると男は、

「……さん……」

 と付け加えたが、時既に遅し。

「俺はお前なんかから呼び捨てにされる程、安かぁない」

  ドスッ ゴキャッ

「ォフッ! ツァァッ! や、やめっ……ゲフッ」

 そのジェイが口を動かす度、男は何かに弾かれたように悶絶した。

「やめっ、ジェイさん。スイマッがはっ」

「原因はお前が作ったんだろう、違うか?」

 彼女は火の出るような視線を男に注ぎながら胸ぐらを絞り上げた。

「すいませんっ! やめます、いえやめました。やりませんっ」

 最後まで言い終わらない内に男は駆け出し、逃げて行く。

 カンの周りを取り巻いていた不穏な空気も消え去り、そこにはいつもと変わらない人々の活気が戻ってきた。

「とてもお有り難うございっ!」

 そう言ってカンは深々と頭を下げた。

「あんたの為じゃない。あの野郎は俺達のルールを破ろうとしてた。だからチョイと可愛がってやったのさ」

 そしてジェイはこれでもかというほど大仰に胸を反らし、こう付け加える。

「もっとも、あんたは身代金目的で誘拐されてたかも知れないんだから、礼を言うのも当然だけどな。
 まぁ、気を付けな」

 そう言うだけ言って立ち去ろうとした彼女だが、カンの首に下げられたチョーカーに気付くと足を止めた。

ジェイはその特徴有る勾玉の模様に見覚えが有った。前に「格好良いのが出来た」と言って、三郎が得意気に見せにきた代物だったのだ。

「あんた。それは三郎の所から買ったのか?」

「あの子サブラウ言いますか。これわたくしにちょうだいました」

 カンは言い直した。

「くださいました」

 ジェイはその大きな瞳をクルクルさせて驚いている。

「ええっ? あの人間嫌いのケチケチ星人がか? 信じられねぇ。
 ……あんたもしかして凄げぇイイ人か?」

 悪い人ではないだろうが、自分からいい人だと言うのもはばかられる。カンは肩をすくめて「解らない」というジェスチャーをした。

「いや、あいつの眼力は凄げぇんだ。
 あいつから物を貰えたなんて、あんたはもっと凄げぇよ!
 丁度今暇なんだ。茶でも飲んでけ、な?」


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