ロ包 ロ孝 2
 その声が発せられると、全身に思い切り水を掛けられたような衝撃が走ったが、彼女は何故かそれを心地よく思った。

『可哀想に、怖かったろう。だがもう賊は片付けた。お前が良ければ暫く俺達の所に来ないか?』

 声の衝撃に弾かれ、そして身体を抱き締められ、綺麗にセットした髪を揉みくちゃにされながら、ジェイは自分が生きている事を実感していた。


───────


「ボスが出す声は、感情と共に威力が増してしまう。だから優しく発した【闘】だった筈なのに、俺をビシバシひっぱたいたんだ」

「そ……可哀想に……ジェイ……」

 カンはあまりの事に二の句を継げないでいた。

「でも、精神が壊れそうになってた俺には、それ位が丁度良い気付け薬だったかも知れない。
 あのままだったら多分、狂っていたか口が利けなくなっていたさ」

【目の前で次々と肉親が惨殺されたら、きっと私は正気で居られない。
 例えボスの声に包まれ、励まされたのだとしても!】

 カンはそう思うと、ジェイの途方もない強さに感服していた。

「それで結局、警察が来たのは全てが終わった後だった。
 奴ら全然使えねぇんだよ」

 家族を失ったジェイはティーファミリーに身を寄せる。

そして蠢声操躯法を習い、マフィアのNo.2という今の地位迄登り詰めたのだという。

 全てを聞いたカンはただ無言のまま、ジェイを見詰めていた。

「ん? おおっと、こんな話。女の子にはチョイときつ過ぎたか? ハハハ」

 これ迄通り馴れ馴れしい態度になったジェイを見て、半ばホッとしたカンはすかさず返した。

「ジェイだって女の子達だろ?」

「俺は女じゃねえし、それにタチは要らねぇの! 日本語勉強してまた出直してきな? 俺も忙しいんでな、じゃっ」

 軽く手を挙げると、店の人に何か耳打ちして歩き去った。

「ニェット(ロシア語でNOの意)……え、エエエッ?」

【沢山質問していいって言ったのに! それに暇だって言ってたじゃない!
 あの子本当に勝手なんだからぁっ!】


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