ロ包 ロ孝 2
「らっしゃ~い」
ここはバー『ギンコー』今日は珍しくマスターの石崎が、明るい声で迎えてくれている。
「なんだよマスター、気持ち悪りぃな。今日はいつもの彫刻、やってないのか?」
「お客様有っての商売ですからネ。コーラでよろしいですか?」
林は背筋に悪寒が走り、肩を抱きすくめて身震いした。
「オイオイやめてくれ! そんな珍しい事言って、また隕石が降って来たらどうするんだ。
さ、寒っ! 今日はホットチョコレートにするっ」
石崎はそんな林を見て、輝かんばかりの笑顔を見せた。
「いや、今日は旧友が来ててな。ちゃんと働いてるとこを見せなきゃと思って!」
林が顎で促された先を見ると、いつもは誰も座っていないカウンターで男性がひとり、コーラを飲んでいる。しかもピッチャーでだ。
「この人もあんたと同じお子ちゃまでな。コーラ大好き人間なんだ。はっはっはっ」
その男性は少しはにかんで林に頭を下げた。
「まだおたくの気難しい指揮官さんも、大嫌いな先輩も来てねぇぜ?」
石崎はホットチョコレートを用意しながら林に言う。その甘い香りは、広くはない店内を温かな色に変えて行く。
「なっ!」
しかし図星を突かれて驚いた林は、声を潜めて窺いを立てた。
「なんでそれを知ってるんだよ、マスターっ!」
すると石崎は、片方の口角をこれでもかと上げて吐き捨てる。
「へっ! そんなの見てりゃ解るさ」
ピロピロッ
「ほら、噂をすれば……ってヤツだ。2人とも来たみたいだぞ……はい、どうぞぉ」
石崎はモニターで来客を確認し、インターホンで返事をすると、階上の鍵を解錠した。
とは言っても、2人はすぐ店に降りてくる訳ではない。
砂塵にまみれた防塵マントを吸塵ロッカーのハンガーに掛け、マスクやインナー、グローブやブーツなどもそれに収めて扉を閉める。
ブブゥウン プシュゥゥゥゥ……
振動と圧搾空気に依って吸塵作業が始まったのを確認し、最後に入り口脇に有るエアシャワーで身体の細部に着いた埃をまんべんなく吹き飛ばした後で、ようやく入室するのだ。
普通この世界では、外出するにも帰宅するにもそれなりの準備が要る。勿論こうやって店を訪れる時も同様だ。そうしなければ、瞬く間にあちこちが埃で真っ白になってしまうからだった。