ロ包 ロ孝 2
「林、もう来ていたのか」

 レッド·ネイルの小池を付き従えて、指揮官の清水が店に入ってきた。ついこの間怒られたばかりの林は周到に準備を整え、修理したてのサンドモービルを駆って、ここ『ギンコー』に来ていたのだ。

「はっ、コマンダー。こんな所までご苦労様です」

「おいおい、こんな所はないだろうよ」

 石崎は憮然とした表情をしながら、並々と注(ツ)がれたマグカップを寄越した。

「これでいよいよレッド·ネイルとブルー·タスクが相まみえる訳だ」

 清水は相変わらず黒いサングラス姿でその表情は殆ど窺えない。しかし話している語調から、かなりの上機嫌だと解る。

しかし一転。

「おい石崎、貴様なんで部外者を入れてるんだ!」

 カウンターの男性を見付けて石崎を怒鳴り付けた。

「大丈夫ですよ。彼は私の古くからの友人で、政府や音力とは真逆にある人物ですから」

 石崎は子供をあやすように優しく語り掛ける。

「真逆だとぉ?」

 その石崎の態度に憤慨しながらも男性を覗き込んだ清水は、みるみる顔色を変えて行く。

「あ、貴方は……」

 振り返って会釈する男性は清水を知らないらしい。石崎と清水を交互に見ながら動向を見守っている。

「貴方は音力創設の祖。初代統括ファウンダー坂本さん!」

「!!!」

 男性は何かに打たれたように硬直し、明らかに動揺している。

「いや、そんな筈は無い。60年も前に亡くなった方だ……失礼しました」

 清水は溜め息をつきながら天を仰ぎ、目をギュッと閉じて小鼻を指で摘まむと言った。

「ああ石崎。悪いが熱いオシボリをくれ。疲れが溜まっているみたいだ」

 石崎から渡されたそれを顔に被せると、うわ言のように漏らしている。

「60年も同じ顔のままで居られる訳がないじゃないか。ああ、どうかしてる」

 清水が民権奪還軍に入る前に就いていたのは警察だった。そこで声の素質を認められ、蠢声操躯法を修得した彼は、自ら志願して音力エージェントとなる。

 二代目統括ファウンダーの栗原が引退してから数えて三代後、五代目となる藤森統括ファウンダーの元で犯罪撲滅に気を吐いていた清水だったが、GPPSが施行され、自らの存在意義を見失い退官。


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