ロ包 ロ孝 2
「マスター! おいマスター!」
「なんだよ、変な顔して汗までかいて! トイレなら奥だぞ? ああ、知ってるよな」
「そんな事でわざわざ来るか! こんなとこ」
「こんなとこコンナとこって、こないだ清水と来た時にも言ってやがったな。
あんた、そんなに嫌なら来なきゃいいだろ」
バー『ギンコー』のマスター石崎は、仏頂面をして現在取り組んでいる大作に向き合うと、彫刻刀を振るい始めた。
「……悪い。口が滑ったよ。でもトイレなんかじゃ無いんだ……」
「………」
こちらに向き直った石崎は、林を睨んで一言も喋らない。その両拳はカウンターの上に固く握り締められたままだ。
「ゴメン、本当に。済まなかった、悪かったよマスター」
ブッッ!
突然石崎は吹き出した。
「ハァーッハッハッハッ。ヒィッ、ヒィィッ」
しまいには窒息しそうになりながら、身悶えして爆笑し続ける。
「あんたのその情けない面ったら無いな! 冗談だよ、冗談。ヒッヒッ」
そう言うとすかさずカウンターの陰に身を翻す。
「……? おぉーい、あんた。どうした?」
恐る恐る顔を出した石崎は、何の反応も見せない林に毒付いた。
「おたくの指揮官も言ってたよな! 『心此処に非ず』って! なんだよ、そのシケた面は」