ロ包 ロ孝 2
 石崎の言葉が聞こえているのかいないのか、持ってきた液晶ペーパーをカウンターに広げると、映像部分を指でつついて見せた。

「これを見てくれ。ウチの野木村が作ったレポートだ。ここに映ってるのはあのティーさんって人だよな」

 あの薄暗い応接室、そのさわりの部分だけを見て石崎は言う。

「うーん。この映像だけでは何とも言えないなぁ」

「じゃあこれは!」

 液晶ペーパートップのサムネイル画像をつつくと、ジェイとティーが並んで写っているあの画像がでかでかと表示された。

ティーは普通にしているがジェイはカメラを睨み付け、今にも飛び掛からんばかりの勢いだ。

「おおジェイだ。これは間違いなくその通りだな。しかし大写しにしても可愛いな、ジェイは!」

 確かにその整った顔立ちは、マフィアにしておくのが勿体無い程の麗しさだった。しかし林は続ける。

「そんな事よりこっちのティーさんだよ! ウチのコンピューターに依ると、画像の男と映像の男が同一人物である可能性は98.45%だ。ほぼ間違いない」

 また映像部分をつついて言う。

「もう一度これを見てくれ」

 そして林は最初から映像を再生した。

「…………」

「どうだ、マスター。あの人はこんな殺人鬼なんだぞ?」

 何回目かの再生中にそうやって問い掛けるが、石崎は呆けた顔で答えた。

「それが?」

【こんな殺戮を行っている男ティーを、マスターは何とも思っていないのか?】

 林は耳を疑った。

「あんたな。そりゃ普通の人からすりゃこの映像はショッキングだろう……まぁ飲め」

 差し出されたコーラを一気に飲み干しはしたが、まだ釈然としない態度でいる林に石崎は問い掛けた。

「でも普通はこれを、正当防衛って言うんじゃないのか? 相手は殺意を持って引き金を引いてるんだぜ?」

 それは実際そうだ。普通の人間があれだけの弾丸を浴びたなら、確実に死んでいる。

「それも聞こうと思ってた。こんなに撃たれてるのにどうして死なないんだっ!」

 石崎は暫く沈黙していたが、林を諭すようにこう漏らす。

「あの人は……死なないんじゃない。……死にたくても死ねないんだ」


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