ロ包 ロ孝 2
「えっ? 死ねないってどういう事?」

 石崎はカウンターを出て林の隣に座ると、持ってきたグラスを差し出した。

「あぁ、有り難う……」

  シュワァァァ カランッ

 茶褐色の炭酸が弾けるグラスの中で、氷が涼やかな音を立てた。

「長い話になるんだがな」

 石崎は静かに話し始めた。


──────


「…………」

「……そういう訳なんだよ」

 石崎は全てを話し終えると、またノソノソと定位置に戻り、調理場の彫り物と対峙する。グラスに結露した水で、カウンターには小さな水溜まりが出来上がり、中のコーラはすっかり薄まってしまっていた。

  シュッ シュッ シュッ

 彫刻刀が立てる僅かな音を聞きながら、林は今聞いたばかりの話を反芻している。

「やっぱりあの人が音力の元を作ったのか。そうか、コマンダーは勘違いなんかしてなかったんだ……」

  シュッ シュッ シュッ

 林の言葉を受け、石崎は木を彫る手を止めて静かに続ける。

「そうして彼は、自分の子供を身籠った奥さんの遺体を自らの術で吹き飛ばしてしまった。
 しかし彼はその超絶発声をしたお陰で、死ねない身体になっていた。自ら命を断って、奥さんの後を追う事も出来なかったんだよ」

 そう言うと、林を見やる事もなく沈鬱な表情で俯いた。

「死ねない事情は解ったよ。でもマスター……元は警察と共存していた音力、そのエージェントだったティーさんが、よりにもよって何でマフィアなんだ?」

「彼は音力から一番離れた所に居なければならなかったからだ。
 裏蠢声操躯法という大いなる力は、また同じ惨劇を引き起こし兼ねない『諸刃の剣』なのだから」

「でもマスターの話じゃ、海鮮で生き残った1人もその裏法を修得してたんだよな?
 その人から音力に、術が伝わったんじゃないのか?」

 石崎は林を真っ直ぐに指差して言う。

「そう。俺があんたらに協力している、そもそもの理由がそれだよ」

 石崎はそう言うと自分のブランデーをひと舐めし、喉を潤して続けた。


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