ロ包 ロ孝 2
 伊賀流忍法の指導者、『新派』である関達の師匠として音力に携わっていた石崎の祖母である舘野杏(タテノアンズ)は、海鮮のオペレーションで3人もの弟子を失った事に大変なショックを受け、床へ伏してしまった。

数年前に亡くなっていた一番弟子の三浦も含めると、4人もの弟子を失った事になるからだ。

当時まだ6歳だった石崎は、杏の見舞いをする度に音力への怨み辛みを耳にしていて、音力という組織が大嫌いになっていた。

 杏の子供は娘2人だけだったので直系の術後継者は途絶えたが、その孫である石崎に全てを託そうと思い立った彼女は、彼が4歳の誕生日を迎えた日から、少しずつ修行を開始していた。

「功(コウ石崎の名前)や、忍術は楽しいかい? お前は覚えがいいから、婆ちゃんも教え甲斐が有るってもんだね」

「うん、婆ちゃん。僕、大きくなったら立派な喫茶店のマスターになるんだ」

 杏は目を丸くして石崎に聞く。

「忍者になるんじゃないのかい? ちょっとがっかりだね」

「忍者なんて仕事、今は無いんだよ? 婆ちゃん。
 僕は喫茶店のマスターになって、婆ちゃんみたいに陰からこの世の中を良くするんだ」

 杏はその言葉を聞くと、いつまでも石崎を抱いて泣き続けたという。

「俺が術を修行し始めた時は、三浦さんが亡くなったすぐ後だった。
 その悲しみを紛らす意味も有ったんだろう、関さん達は懇切丁寧に俺を指導してくれた」

 大人の中に混じって修行を重ねた石崎は、蠢声操躯法をも体得し、伊賀流忍法も免許皆伝を目前にしていた。

 そんな矢先に先のオペレーションが行われて弟子を失った。心労で倒れてしまった祖母は、術の伝授を関に託したのだ。

「関さんは音力には知らせずに、裏蠢声操躯法も俺に授けてくれた。
 伊賀流忍法と表裏の蠢声操躯法を操る事の出来る俺は、最強の子供だった」

 関と2人連れ立って、社会的なしがらみに依って擁護されている悪を暴き、制裁を下す小学生。

 そんな二重生活を送りながら、何年かは瞬く間に過ぎ去った。

「しかし、音力の内情はどんどん悪くなって行ったんだ」


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