ロ包 ロ孝 2
「司令、どうしたんですか? 近頃やけにお一人で考え事をなさっていますが」
その時、月コロニーではまた軍人2人が話をしている。
「いや考え事というかな、何故だか急に昔の事が懐かしくなってな」
遠い目をしながら老軍人は小さく鼻を啜った。
「青春時代の思い出ですか?」
「ああ、あの頃がそれだったのかも知れない。学生時代より輝いていられた」
今は入手困難となった煙草に火を付け、人工背景を砂浜の映像に切り替える。
「もうこんな景色は見れないんだなぁ」
寄せては返す紺碧の波を、太陽が燦々と照らしている。輝く白い砂浜を小さな蟹が一匹、ちょこちょこと横切っていく。
「そうですね。小官が見られたのも、小学校に上がる前迄でした」
「そうか。君はまだ、すれすれでデイアフター※ では無い訳だ」
「ええ。45年生まれですから今年27になります。デイアフターは21才以下の人達ですね」
老軍人はその言葉を聞いて目を見開いた。
「2045年だって? 丁度GPPS施行の年じゃないか。でも27と言えば、丁度私が蠢声操躯法を覚えた頃だ。あれから64年も経ってしまったのか!」
老軍人は指折り数えて目を覆った。若い軍人は天を仰ぐ老軍人の背中に然り気無く寄り添い、いつ彼がよろけても差し支えないように準備している。
「でも蠢声操躯法を体得なさっていると、いつまでもお元気ですよね。栗原司令にもまだ10年20年、いや30年だって頑張って頂きますよ!」
「はは、俺は120を過ぎなきゃ死ねないのか。そりゃ大変だ」
※キング·オブ·アンゴルモアのザ·デイ·アフターという事から、隕石落下以降に生まれた人。