ロ包 ロ孝 2
 しかし。

「さっむいわねぇ〜。やっぱり私には向いてないわっ!」

 野木村はアッサリ乙女に戻っていた。

「山路さん、あの威勢の良さはどこに行っちゃったんすかぁ?」

「いやぁ、焚き付けるのがぁ早過ぎたみたいですぅ」

 西村が聞くのも無理は無いが、火事場の糞力がそんなに長く続く筈もなく、一行は途中でビバークしていた。

「大体ここら辺が中間地点よ。昔まだ地球が暑かった頃、この重井沢(オモイザワ)辺りは避暑地といって、涼しさを求めて人々がやって来ていたらしいわね」

 みんなの白い視線をヨソに、野木村の蘊蓄が始まった。

「へぇええ、そうなんですかぁ。涼しさを求めるなんて、今では考えられませんねぇ」

 ここ重井沢は現在、大型アウトレットモールが点在する商売の街となっている。

「あなた達。こんな薄っぺらいテントじゃ凍死しちゃうと思わない? ハァイ、帰りたい人ぉ」

 テントを突き破る勢いで手を掲げ同志を募った野木村だったが、皆はまるで無反応だ。

「みんな、見掛けに寄らず真面目なのねぇ。それじゃ何としてもあと1日、オシリを痛めてサンドモービル・ツーリングを楽しもうって言うのね?」

 野木村はその巨体を無理矢理寝袋に押し込むと「はいはい、好きにすればいいわ」と言って背を向けた。

 テントの外は零下50度にもなる極寒の夜。

 簡易風力発電でもたらされる電力に依り床暖房が入れられてはいるが、やはり摂氏5度程迄しか上がらない室内では、分厚い防寒インナーを脱ぐことは出来ない。

寝袋の中で「身体中が締め付けられて、とても眠れたもんじゃないわね」とこぼしていた野木村が、一番最初に高いびきをかいている。

「や、山路お、起きてるか」

「ううんん? ああ、起きてるよぉぉ」

「牙(タスク)を失った俺達の新しいこ、コードネームがう、浮かんだよ」

「下らない事言ってないでぇ、早く寝ろよぉ、大沢ぁ」

「ぶ、ブルー・ドルフィン。良くないか? や、山路ぃ」

「……zz……」

「なんだよね、寝ちまったのか」

 そして夜は更けてゆく。


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