ロ包 ロ孝 2
「はいはい、皆さん朝よぉ!」

 皆に朝食を配る野木村は異常にハイテンションだった。

「どうしたんですかぁ? 何か有ったんですかぁ?」

「さっきコマンダーからメールが来てね。ミッツィーが歩行訓練始めたんだって!」

  シャッ シャッ

 野木村は朝食セットの箱に付いているヒモを次々に引くと、山路と大沢の前に差し出した。

「はい、西村達のも3人分」

  バキッ

「あらヤダ、折れちゃった。まぁいいわ? 頂きまぁす」

 自分の加温装置を壊してしまった野木村は、冷たいままの朝食を掻き込んだ。

「ほら冷めるわよ? 何ぼぉっとしてんの!」

「イルカにき、牙が生えるかもな」

 そう大沢は独りごちていた。


───────


「松元城(マツゲンジョウ)を回り込むように右折したら、暫くは真っ直ぐね?」

「はい、解りました」

 松元城で2回目の水素を充填したら、後は網岡山(アミオカヤマ)を目指してまっしぐらだ。途中嵐房峠(ランボウトウゲ)という難所が有るが、昨日の調子では恐らく問題無いだろうと践んでいた。

 そして野木村一行はいよいよ嵐房峠に差し掛かった。

道路がきちんと整備されていた頃は、その急な峠を越える為のつづら折れになった峠道と、そこを真横に貫通するトンネルが有ったのでまだ良かった。

しかし現在、トンネルは砂塵で埋もれて凍り付き、峠道も僅かにその痕跡が窺えるばかりとなっている。

「……思った以上に難所だわ……」

「これを越えるんですか……」

 野木村と三宅は、途方に暮れて峠を仰ぎ見ている。

 山頂から吹き下ろす冷たい砂嵐は、僅かな生命の営みも拒絶するかのように激しくうねり、野木村達の前に立ちはだかっていた。

「ただ見ているだけじゃ、状況は何ひとつ好転しないわ? さぁ、行きましょう」

 野木村はそう言うと、マントを翻してタンデムシートに女座りした。

「頼むわネ? 三宅」

「行きますか」

 野木村の真剣な眼差しにまるでそぐわない女座りも、三宅の心を解すには至らなかった。


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