好きだ好きだ、大好きだ。
裏手にある更衣室で、着てきた制服にノロノロ着替えると、その後の行動はいつも同じ。
バッティングマシーンの打席裏のネットを指先でテンテン弾きながら、そこでバットを振る人達をぼーっと眺めて、出口に向かってゆっくり歩くんだ。
桜は咲いたのに、まだ少し冷たい風。
それが私の制服のスカートを、ふわりと揺らした。
立花 華、16歳。
現在高校2年生。
この不思議空間でアルバイトを始めて、もう1年になる。
バイト先をここに決めた理由は至って単純で、ただ“家から近い”から。
それに時給だってそれなりに高いし、佐野さんは社長なのに、いい人だし。
そんな事を考えながら歩く私は、ある場所で足をピタリと止めた。
「……あ」
この人、さっき驚くほど球を飛ばしてた人だ。
足を止めた目の前の打席に立つその人は、さっき事務室から見えた、すごい球を打っていた人。
「……」
ホントにすごい。
離れた所から見るのと真後ろで見るのとでは、鳴り響く打球音も迫力も、全然違う。