THE FIRST STEP
嘘…。
「あ」
振り返ると今まさに会いたくない彼がいた。
私の顔を見て、さっと彼の顔色が変わる。
「どしたの浅海。何かあった?」
明日の天気はどうだろうね。
とでも同じような調子で聞いてくる彼に私の押しとどめていた何かが崩壊した。
「藤田くんはどうってことないんでしょ」
「え」
「私は噂のこと今日一日ずっと気にしてたのに、藤田くんにとっては気にもならないどうってことない事なんでしょ?」
「浅海?」
「私には気にしないなんてできない。私の中じゃまだ過去じゃないの」
言いきった瞬間に涙が一筋頬をつたった。
驚いたように立ち尽くす彼に気づいたときには、弾かれたようにその場から逃げていた。
私は無我夢中で住宅街を走った。