その仮面、剥がさせていただきます!
あたしは首を項垂れさせ、出口に向かう。
 
「リツ帰るの?」

「うん……ご馳走様でした。そしてお邪魔しました……」

ぺこりとお辞儀をして後ろに影を背負いながらドアノブに手を掛けた。

「怒ったの?」

「ううん……」

春樹との賭けに負けただけなのよ。

ただ思うのは……あのキスだってあたしのことからかっただけなんでしょ?

「今日は何するの?よかったら……」

「これから引っ越しの片づけとかいろいろ忙しくて。それじゃ」

あたしはリクの顔も見ずに部屋を出て行った。


隣の自分の部屋に帰るとキッチンのテーブルの上に拓にぃが残していったメモが置いてある。

『また来る』

一言だけ書いてあったけど、その前に『面白そうだから』って付いてそう。

紙切れを丸めてごみ箱に向かって投げると、ごみ箱の端に当たって床に落ちた。

「スーパー女子か……」

誰もいない部屋で独り言を言う。

何もしないまま諦めるのは春樹の手前、癪に障る。

かと言ってどう頑張ったってリクの理想女子に近づけそうもない……

やっぱり諦めるしかない?

リビングの床に仰向けに寝転がり昨夜のことを思い出す。

からかわれただけだとしても、このまま諦めることなんかできない。

「よっし!」

勢いよく起き上がると、気合いを入れるために前髪をくくる。

まずは部屋の片づけから始めよう。

ウジウジしてるのは性に合わない!

あたしは自分の部屋に入ると、拓にぃが端に寄せただけの荷物の整理に取り掛かった。


が……

気合いはそう長くは続かない……

荷物の多さに少し休憩と横になったのがいけなかった。


前日の睡眠不足と疲れであたしはいつの間にか荷物の中で眠ってしまった。

目を覚ましたのはチャイムの音。

どうせ拓にぃが今晩も泊めてくれと来たのだろうと放っておくとチャイムは鳴りやんだ。

また眠りに落ちていると、またチャイムが鳴る。

あれからどれくらい時間が経っているのか分からないけど、しつこいヤツだ。

このまま放っておこうかとも考えたけど、マンションの前をウロウロされるのも困る。

あたしは目を擦りながら寝ぼけた顔でインターフォンを覗くと、そこにいたのは拓にぃではなく澤田先生だった。

< 104 / 256 >

この作品をシェア

pagetop