その仮面、剥がさせていただきます!
カレー、今日は食べられないのか……

しゅんとしてペコぺコのお腹を擦ると、澤田先生が紙袋からタッパーを取り出し何やら作業を始めた。

「何ですかそれ?」

「ん?蕎麦だ。上原の引っ越し祝い」

引っ越し蕎麦を自分で打ってきたと自慢げに話しながら手際よく茹でている。

「休みの日に蕎麦打ちですか……」

あたしは興味なくそう呟くと、先生は後ろを振り返って蕎麦打ちの工程を鬱陶しいほど熱く説明し始めた。

「センセーって定年退職したオヤジみたいですね。何もすることがないから蕎麦打ちに嵌る……みたいな?あ。だからカノジョいないんですね」

「あのな~」

これからカレーを食べる気満々だったのにそれを阻止した先生に軽いジャブ程度に不満をぶつける。

仮にもあたしを心配して訪問してくれた澤田先生をメッタ刺しにはできないじゃない?

茹でたてで食欲をそそる出汁の香りがふんわりとあたしを包むと、一瞬カレーのことは忘れ、目の前の蕎麦をすする。

「美味しい……」

「だろ?」

丼の中を一滴も残さず平らげると、今度は満足感でお腹を擦った。

やっぱり、作るより食べるの専門がいいね。

お腹がいっぱいでも鍋からカレーの匂いがしてくると、また食欲が出てくる。

先生が少しだけだぞと味見をさせてくれたカレーの味は、今まで食べたどの味よりも美味しかった。

こりゃ~明日が楽しみだ。

料理も教えてもらい蕎麦もご馳走になり、澤田先生のお役目は終わったかに思われたが……

っていうか、もう帰ろうよ?

それなのに、先生はこんなことを言い出した。

「掃除してるか?」

掃除どころか引っ越しの片づけだってまだだっていうのに、あれもこれもあたしにはムリだっていうの!

「仕方ない。ここ掃除してやるから、上原は部屋の片づけをしてこい」

「片付け……ですか」

「なんだ?引っ越しの片づけもまだなんだろ?」

「そうですけど……」

はっきり言って面倒臭いです。

なんならお腹一杯になったことですし、今すぐにでも寝たい気分です。

「ズルズルこのままにしてたら一生片付けできないぞ!」

「う……それはそうですけど」

だから、面倒なんだってば!!

そう心の声が訴えた時、タイミングよくあたしのケータイの着信音が鳴った。

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