その仮面、剥がさせていただきます!
「リク……?」

あ。玄関のカギ、またかけるの忘れてたのね。

ってそういうことじゃなくって!

ハプニングだとはいえ、先生に両腕を押さえられベッドに倒れているこの体制はあらゆる誤解を招くこと間違いなく……

「お。悪い」

先生は大人しくなったあたしの上からすぐに退いてくれたけど、あたしは暫く動けないでいる。

リクは今どういう顔をしているんだろう。

どうしてここに来てくれたんだろう。

あたしのことが心配だったから?

リクがあたしのことを好きじゃないのかって自分に対して甘い考えが頭の中を駆け巡っていた。

ふ……

そんなことあるわけないじゃない。

電話の最中にあんな大声を聞かされたら、誰だって心配になるってもんよ。

「よう。海道!近くにいたのか?しかし余計散らかったな」

部屋のあちこちに散らばった物を見て先生が呑気にそう言った。

あたしはその声でやっと起き上がると一番にリクの顔を見る。

いつもの穏やかな雰囲気とは違い眉間に皺を寄せ、話しかけた先生を素通りするとベッドの上にいるあたしの傍に近づいてきた。

「これ……どうしたの?」

カットバンだらけのあたしの手を取るとそう聞いてくる。

「あ。これ?これはね。お料理を先生に教えてもらってて……あのね。あたしカレー作ったんだよ。リクに食べてもらいたくて……」

きっと「嬉しいよ」とか「頑張ったんだね」とかそんな言葉が返ってくるって思ったのに……

リクはあたしの手を放すと先生の方を振り返る。

「リツが料理苦手だって先生は知ってましたか?」

「ああ。知ってたけど?」

「それじゃどうしてこんな手になるまで作らせたんですか?」

リクの声は冷静に聞こえるけど、部屋の空気が凍ったんじゃないかって思えるほど冷たい。

「先生のせいじゃないの。どうしてもあたし一人で作りたかったから」

リクにあたしだって料理ぐらいできるって思ってもらいたかった。

そうすれば、すこしはリクの理想の彼女に近づけるんじゃないのかって思ったから。

「大怪我してたらどうするの?ご飯だったら俺が作るから、リツは心配しなくてもいいよ」

違う……

それじゃ意味ないんだよ。

リクに何も出来ないって思われたくないから努力しようとしてるのに。

あたしの作った料理を「美味しい」って言って食べてもらいたくて頑張ったのに……

「あたしはただ……リクに食べてもらいたかっただけだから」

スーパー女子にはなれそうもない。

そんなこと初めから分かってるのに、あたしはやっぱりリクを諦めたくはなかった。

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